将来に照準合わせ、暑い土曜日に議論
1990年にかけて、課長職を務めていた本社の資材部に、「IPスクール」と呼ぶ研修制度を新設した。「IP」とは、国際調達の英語表記の頭文字だ。
入社以来、調達畑を歩み、それまでにロンドンとサンフランシスコ、ボストンで計8年3カ月、資材や部品の海外調達も経験した。「これからは、事業をもっとグローバル化しなければいけないし、調達も日本で『買い手』としてあぐらをかき、商社を動かしていればいい時代ではない」。そう感じて、若い人を育てよう、と思い立つ。40代を迎えたころだった。
毎月1回、全国の工場や事業所の調達部門から約20人を集め、海外調達のノウハウを教える。一期は半年程度で、講義はずっと、1人で務めた。終わると、職場の了解を得られた研修生たちを、海外拠点に送り出す。3カ月から半年、調達を手伝うだけではなく、独力で銀行口座を開かせ、家の賃貸契約を結ばせるなど、将来に備えた経験も積ませる。
ロンドンで、自分も同じことから始めた。そう指示されて「社命で海外勤務をするのに、なぜ、会社がやってくれないのか」と思ったが、やってみると、その国の文化風習がわかっていくし、契約書を一字一句読んで、よく確認してからサインする習慣も身に付く。
21世紀を迎えるまで、多くの事業所や工場で、縦割り式に資材や部品を調達していた。よく知った国内企業からひとたび買えば、ずっと同じになりがちで、世界各地から最適で最安のものを買おうとか、円相場を考慮しようなどという発想は、出てこない。
本社の常務・調達部長になった2007年6月、その改革に着手する。7月半ばの土曜日、部員たちを集めて、「調達イノベーション」の構想を説明した。縦割りの壁を崩し、全社で「最適の調達」を実現する道筋だ。例えば「赤字の事業部門に言われて、唯々諾々と応じていたら、全社の赤字を増やすだけだ。最適で最安の仕入れ源を把握し、事業部門との交渉力を高め、全体最適を図れ」と檄を飛ばす。もう夏の日。休日でエアコンが止まった部屋で、汗をぬぐいながら、議論を重ねた。