「組織」を変えて「景色」を変える

東芝社長 田中 久雄
1950年生まれ。73年神戸商科大学商経学部卒業、東芝入社。96年東芝情報機器フィリピン社、2000年東芝英国社、02年デジタルメディアネットワーク社資材調達部長、04年PC&ネットワーク社資材調達部長、06年執行役常務、08年執行役上席常務、09年執行役専務、11年取締役・代表執行役副社長。13年より現職。

2000年3月、テレビを組み立てていた東芝英国の生産担当副社長に赴任した。イングランドの港湾都市プリマスで、債務超過に陥っていた工場の再建が任務。英国勤務は2度目で約22年ぶり、40代最後の年だった。

前任のフィリピン工場を去る前に、プリマス工場は何が原因で不振に陥ったのか、と考えた。おそらく、工場内が整っていない、つまり「景色」がダメなのではないか。ボス的な人間が牛耳り、「組織」が機能していないのではないか。そんな状況下で、従業員たちの「意識」がばらばらなのではないか。そんな景色、組織、意識の「3つのシキ」に課題があるのだろう。そう思って、渡英した。

予想通りだった。着任し、毎日、工場をみて回り、現場の話を聞いた。でも、それぞれの話に、個別に反応していくことは避ける。全体を改善するのでなければ、前へは進まない、と考えていた。

ひどかったのは工場の「景色」だ。廊下ばかりか生産ラインの間の通路にも、いろいろなものが雑然と積んであり、反対側の壁もみえない。近くの作業棟へいっても同じ。古い設備やテレビの試作品などが山のようになり、その谷間で、年配の男性が部品の梱包作業をしている。胸中で「これでは、働く意欲も萎える。申し訳ない」とつぶやいた。

すぐに、部長会で、整理するように指示した。だが、1週間たっても、きれいにならない。しびれを切らし、「来週までにきれいにしなかったら、自分と部長全員の机をゴミの山の中へ移す」と宣言する。本気だった。強い剣幕に、さすがにみんなも動き出す。ひと月後、40トンもの不要物が除去され、「景色」が変わる。

ボス的な存在は、英国人の製造部長。本社の社長やテレビ事業の幹部と親しく、何でも勝手にやっていた。でも、自分には、何のしがらみもない。ボスは無視し、一緒に着任した東芝英国の社長と経理担当副社長と3人ですべてを決め、「組織」を動かす。ボスが何か言ってきても、受け付けない。3人で「これで、本社から『ダメだ』と言われたら、喜んで帰りましょう。好き好んできたわけでもないし」と笑い飛ばす。