細く長くか、太く短くか
高橋さんとは何回も酒席をともにしたが、いったんカメラから離れると、話題豊富でユーモアあふれ、どことなく開高さんを彷彿させ、稀代の文豪の知られざるエピソードもたくさん聞かせていただいた。
酒も料理も私などと同様がんがん進んで健啖ぶりをみせる高橋さんであったが、すでに知り合った頃から糖尿病を患っておられた。己が痛風には他人事ではないと強い関心を抱いているものの、糖尿病とは無縁でしかも、
「痛くも痒くもない」
などと聞くにおよんで、なあんだ、と軽視すらしていたところ、いつもお世話になっている先輩が糖尿病で入院し、忘年会に、
「脱け出してきた」
と左腕の包帯を取って見せてくれた。傷口がぱっくりと開き、骨が見える。
「壊死しているから痛くない。最期はエイズと同じで、抵抗力がなくなり、とるにたらない細菌でも死んでしまうんだ」
淡々と語っていたが、その翌々日、他界されてしまった。
高橋さんは、インスリン注射をしていて、いつであったか注射器を見せてもらった。ペンケースに入った万年筆のようで、
「痛くもなんともないですよ」
平然としていたが、病状は楽観できるようなものではなかったのであろう。7年前、急逝されてしまった。
糖尿病も痛風と同じく、日常的な療法として、エネルギー摂取量をコントロールしなくてはならない。高橋さんは一笑に付した。
「カロリー制限なんて。悪くなったらクスリがある」
いちいち食材の熱量を計算し、一定量を超えない。それは自由を規制され枠にはめられた生活であって、芸術家にはおよそふさわしくない。そんな発想と生き方に、つい憧れてしまうとき、ダイエットの決意がふらふらとぐらつく――。