袴田さんのDNAは検出されなかった
5点の衣類には血痕が認められた。(詳細は拙著参照)
原審当時はまだDNA鑑定の技術は確立されていなかったが、この血痕の付着状態そのものが、不可解、不自然であった。その点は拙著に述べてある通りである。
第二次再審請求では被告、検察双方でDNA鑑定が実施された。
最大の焦点は、白半袖シャツ右肩に付着したB型血液である。検察側は原審でこれを袴田さん自身が傷ついて出血したもの、としていた。ところが、検察側の鑑定人は、この右肩の血液から検出したミトコンドリアDNAが、袴田さんのものと一致しないことを認めたのである。
弁護側の鑑定人が出した結果も同じく、袴田さんのDNAではない、であった。
検察側は、
「鑑定試料(5点の衣類と被害者の着衣)は、古いうえにみそ漬けにされたり、火災で高温にさらされているため、DNAの劣化が相当進んでいると考えられる。保存状態も悪く、第三者のDNA(唾液など)が混じっている可能性も否定できない。鑑定結果に信用性はない」
と苦しい弁明をした。
一方、弁護側鑑定人は、検察側鑑定方法について、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応=DNAを増幅する手法)を30回、35回と規定以上の回数で実施しているため、アレルドロップイン(父母由来ではない型の検出)の可能性があることを指摘。
弁護側鑑定人は、PCRを規定範囲内の28回にしているため、アレルドロップインは起こらない、と説明した。
さらに、鑑定試料の血液細胞に抗体を付着させ、遠心分離によって血液由来のDNAと唾液由来のDNAを分離して抽出。こうして得た血液由来のDNAをPCR(28回)にかけたところ、
「5点の衣類に付着した血液からは、袴田さんのDNAは検出されなかった。被害者4人のDNAも検出されなかった。検出されたDNAはそれ以外の5人以上によるもの」
と、報告したのである。