4分の1が降格し、同時に4分の1が昇格<
パナソニックが導入する新制度は新たに担当する役割の大きさに応じて処遇を決定する役割等級制度を導入する。月例給は、役割等級に基づいて支給し、個人の貢献度や所属部門の業績は賞与に反映される。
ソニーは「現在果たしている役割」のみに着目した「ジョブグレード制度」を導入し、年功要素を完全に排除するとしている。基本的には「職務・役割給」制度(以下、役割給制度)である。
では何がどう変わるのか。
従来の職能給制度が、本人の能力など「人」を基準に決定していたのに対し、「仕事」を基準に賃金を決定する。
年齢や能力に関係なく、本人が従事している職務や役割に着目し、同一の役割であれば給与も同じにする。ポスト(椅子)で給与が決定し、ポストにふさわしい役割を果たせなければ給与も下がる。つまり、降格・降給が発生する。
職能給は「本人が身につけた能力」に支払われるので、一度上がると下がらない。しかし、役割給は人事部長800万円、人事課長500万円というように部長や課長という役割に値段がついている。
したがって「あなたは部長の役割を果たしていませんね」という人事評価が下れば課長に降格され、給与は800万円から500万円に減ることになる。
役割給制度は毎年役割の見直しが実施され、若くても優秀な人材を抜擢できる一方、職責を全うできない社員を随時降格できる。
ということはこれまで「資格」だけで高給を得ていた"名ばかり管理職"を一掃できる。
会社にとってのメリットはそれだけではない。これまで職能給制度によって下げることが難しかった給与(固定費)を流動費化できる。
つまり、昇・降格(正確には昇・降級)によって人件費の削減を含む調整が可能になることだ。
両社の新制度に関しても「総人件費も数%減る見通し」(パナソニック)、「評価にメリハリをつけるため、総人件費は下がる見通し」(ソニー)などと報じられている。
この制度の威力は実際にすごい。
3年前に役割給制度を導入したIT関連企業の人事部長はこう語る。
「導入した1年目に4分の1が降格し、同数が昇格した。2年目には管理職の半数近くが入れ替わったが、新制度によって新陳代謝が進み、若手社員のやる気を引き出す効果もある。人事としても人件費の裁量部分が増えたので、成果を上げた優秀な人材に手厚い報酬を上げることができるようになった」
若手社員にとっては給与も上がり、昇進のチャンスが広がることになるが、役割給制度の下では、現在の地位や給与に安住することは許されなくなる。
日本企業で最初に非管理職層も含めて役割給制度を導入したのはキヤノンだった。導入と同時に定期昇給制度や住宅手当、家族手当など諸手当もすべて廃止した。導入3年目には、管理職層に300人が昇格する一方、150人が降格した。ソフトバンクも同様の制度を06年に導入している。
実際に役割給制度の導入も進んでいる。日本生産性本部の調査(2014年3月)では管理職の導入率は76.3%、非管理職層では58.0%に達している。
しかし、実際は職務遂行能力の高さを反映する職能給と併用している企業が多い。つまり、月給を「役割給+職能給」で構成し、職能給で生活保証給が維持されている格好だ。
役割給1本、しかも非管理職も対象にするパナソニック、ソニーの制度導入によって他の日本企業にも同じ動きが広がる可能性もある。
年功要素の廃止など制度の運用しだいでは、中高年管理職にとっては生活にも大きな影響を与えることになる。