今まではよくも悪くも生温い成果主義

職務・役割給を説明する前に、これまでの制度がどういうものであったかを紹介しよう。たとえば、パナソニックの現行制度はこう報じられている。

<社員の賃金は現在、「主事」「参事」などの資格に基づき、それぞれ一定の範囲内で上下する仕組みだった。一部で成果主義を取り入れてはいたものの、それほどの差が出ていなかった。>(『日本経済新聞7月30日付朝刊』)

じつはこの制度こそ日本の賃金制度を代表する「職能資格制度」(職能給)と呼ばれるものだ。

簡単に言えば、新入社員から幹部社員に至るまで、求められる職務遂行能力を等級ごとに定義し、その等級ごとに決められた給与を支払うものだ。その等級を「社内資格」と呼び、それによって支払われる賃金を「資格給」または「職能給」と呼んでいる。

パナソニックの主事、参事も社内資格の呼称である。そして資格を裏付ける職務遂行能力とはその人の仕事ぶりを見て「彼は主事であるが、参事の要件である知識や技能を身につけたな」と評価されれば、参事に上がることになる。これを「昇格」と呼ぶ。

実際に昇格するには、1年間の業績と上司が判定した行動評価の総合評価をもとに、人事部が最終的に判断する場合もあれば、論文や筆記試験などの「昇格試験」を課すところもある。

資格に必要な知識や技能などの能力を身につければ昇格し、給与も上がるが、能力がない人は給与も上がらない。

つまり、この仕組みをうまく運用すれば年功的な賃金になることはない。ところが、報道では「それほどの差が出ていなかった」という。

それはなぜか。職能給制度を廃止したIT企業の人事部長はその理由をこう語る。

「昇格に際して細かく社員の能力をチェックしているように見えるが、仕事に必要な技能は入社後の研修や現場の上司や先輩の指導によって自ずと向上していくものだ。よほどの事情がない限り、同じ職場で仕事を続ければ、個人差はあるにしても年数を重ねるごとに能力は上がる。また、評価する上司も『彼もこれぐらいのことができるようになったのだから昇格させてもよいだろう』と甘くなりがち。その結果、一定の年齢になれば昇格させるという年功的運用になってしまった」

極論すれば、これまでの職能給制度は「どんな実績を上げたか」ではなく、仕事に必要な「能力を身につけているか」を評価するためによほどのことがない限り能力が落ちることはない。

したがって給与が下がり、降格されることもない仕組みなのである。その結果、勤続年数や年齢が上がれば職能資格も上がる年功的給与になってしまった。

じつはソニーは2000年に管理職、04年に非管理職層のこの職能給制度を廃止し、新たに実績評価も加えた「期待貢献評価制度」を導入した。

だが、厳格なものではなく、たとえば降格させるには実績評価が低く「上司とのコミュニケーションを通じて、実績を出すための機会を与える」ことを要件とするなど甘いものだった。新聞でも「現行制度は過去の実績や将来への期待も含めて評価しており、結果として年功要素が残るのが課題だった」と報じている。