黒いカレーをたいらげ
では人手不足に直面する業界では今、どのような動きがあるのか。ワタミの広報・矢野正太郎は険しい顔で語り始めた。
「去年は本当に地獄でしたよ。事実をもとにいくら丁寧に説明をしても『ワタミはブラック企業だ』と言って叩かれる。特に週刊誌はひどかった。渡邉美樹会長(当時)がカレーを食べているところを週刊誌フライデーが取材をしていたのです。取材自体は穏やかな雰囲気だったのに、記事を読んで驚きました。『(渡邉会長が)黒いカレーをたいらげ』という見出しを打たれたんです」
渡邉が食べていたのは、チェーン店・ゴーゴーカレーの普通のカレーだった。写真はモノクロだったので、記事では“ブラックカレー”を食べているとされてしまったと、矢野は嘆く。
「他にも週刊文春が10週連続でワタミを叩き続けました。さらにはその記事を悪意で編集したとしか思えないネットの記事が出回る始末で、もうむちゃくちゃ。ご指摘のすべてが間違っているとは申しませんが、ワタミの3年離職率は業界水準よりも低い。私たちがどれだけまじめに食の問題を考え、また労働環境の改善に腐心しているか、そんなことにマスコミもネットの人々も興味はないんです。ただ叩きやすいから叩いている」
ブラック企業というイメージが先行し、バイト集めも苦しい状況が続く。
「外食産業の平均時給も、募集単価も、短期間で随分上がってしまった。募集単価というのは1人のバイトを雇うためにかかった金額ですが、これが1万円に迫ろうという勢いです」
シュリンクしていく居酒屋業界、人手不足、「ワタミは悪」というイメージ。これでもかといわんばかりの逆風にさらされ、ワタミは既存店の大幅な整理と多業態への切り替えを始めた。総合居酒屋である「和民」と「わたみん家」を今期中に60店舗閉店し、一方で高単価の店づくりを狙う。桑原豊ワタミ社長は、「これをリストラという人がいるが、実情は全く逆。1店舗当たりの社員数を増加させ、より高品質なサービスを提供すると同時に労働環境改善も行える。異動を伴わないエリア限定社員制度もより充実したものにしようとしています。社員が働きやすい環境であればバイトも集めやすくなるはずです」という。