この仕事は何のためにやるのか部下に示していますか

ただ、ときには大きな仕事を任せなくてはいけないこともあります。その場合は、「スモールゴールの設定」を心がけましょう。受注するまでに長いプロセスがある大型案件は、ゴールが遠すぎるためモチベーションの維持が難しい。そこで「まずお客様に会うことを目標にしよう」というように、通過地点にいくつもゴールを設定して、小さな成功体験を積めるようにします。これが2つ目のポイントです。

3つ目は、「具体的なアドバイス」。部下の成長を促すために「自分で考えて工夫してみろ」と指導する上司が多いですが、これはよくない。部下世代は慎重なタイプが多く、指示されていないのに自発的に動くことに慣れていません。その状態でいきなり自主性に任せるような指導をすると、部下は戸惑うばかり。また、自主性に任せる指導は、部下に「上司に突き放された」と感じさせるおそれがあります。自分の居場所をつくるために仕事をしている部下世代にとって、放任型のマネジメントはマッチしていません。部下が「ここにいてもいいんだ」と思えるように、可能なかぎり手をかけてあげる必要があります。

具体的には、一度は一緒にやってみせることが大切です。アポ取りの指導なら、「どうすればアポが取れるのか、自分の頭で考えろ」ではなく、アポが取れそうな顧客を教えたり、一緒にトークの内容を考えます。もちろんずっとつきっきりで指導するわけにはいきませんが、少なくとも最初は手取り足取りで教えたほうがいいでしょう。

部下の職業観を前提にしたマネジメントで部下の仕事が軌道に乗ってきたら、次は部下の職業観を引き上げるアプローチへと移ります。部下世代、とくに20代の社員の職業観は、自分の少ない経験や聞きかじった知識がベースになっています。そこにいきなり上司世代の職業観を押しつけると頭から拒絶されるだけですが、部下の職業観を前提にしたマネジメントで成功体験をいろいろ積ませると、「こういう見方もあったのか」と気づき、徐々に職業観が広がっていきます。まずこうした地ならしをしてから、部下の職業観を引き上げていくことが大事です。

まず意識してほしいのは、「なぜこの仕事をするのかという理由の明確化」です。先ほど、上司と部下で顧客満足度の向上についての解釈がズレるという話をしました。上司は顧客満足度向上を、リピーターの獲得や自社のブランディングという事業戦略を実現する手段として位置づけていますが、部下は文字どおり受け取って、安易な値下げに走りやすい。こうしたことが起きるのも、「この仕事は、何のためにやるのか」ということを上司がきちんと示していないからです。上司は仕事の全体像や位置づけを示したうえで、その仕事の目的や理由を明確にすべきです。それが部下の視点を高めることにつながっていきます。

次に、「グッドストーリー/バッドストーリーの提示」が重要です。その仕事がうまくいけば何が起こり、失敗すればどうなるのかというストーリーを示すことで、仕事のやりがいを醸成させたり、逆に危機感を持たせるのです。このときは、「この仕事がうまくいって事業が伸びると、喜んでもらえるお客様も増える」というように、部下の職業観に合った表現をしたほうが刺さりやすい。最後は、「成功体験を積ませること」を心がけましょう。必要性と成果がわかっていても、失敗への恐怖心が強い部下世代は、最初の第一歩をなかなか踏み出せません。その恐怖心に打ち克つ自発性は、やはり成功体験からしか生まれません。

打てども響かない部下に辟易としている上司は多いかもしれませんが、部下世代は厳しい就職戦線を勝ち抜いてきただけあって、基礎能力が高い。職業観の違いからまだ力を発揮していないかもしれませんが、彼らをきちんと戦力化するのが上司の役目。上司と部下のズレをうまく修正して、両方が活き活きと働ける組織をつくりあげてほしいと願っています。

(構成=村上 敬)
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