エジプト次期大統領は米国とツーカー
キリスト教世界とイスラム教世界の衝突という「文明の衝突(サミュエル・ハンチントン)」的構図で見れば、コソボはイスラム教国、セルビアはれっきとしたキリスト教国である。
それでもアメリカとEUがコソボに肩入れしたのは、セルビアのミロシェビッチ大統領が独裁者であり、民主化運動を容赦なく弾圧し、コソボ紛争では「民族浄化」と呼ばれる殺戮を繰り返していたからだろう。非人道的な独裁者が悪いというなら、シリアのアサド大統領だって20万人近い自国民を虐殺している独裁者である。しかし、EUはアメリカのシリア攻撃に同調しなかったし、アメリカも結局、シリア攻撃に踏み切れなかった。
昨年、軍事クーデターが起きたエジプトでは最高実力者のシシ前国防相を中心とした暫定政権が実権を握っている。いわば軍事独裁政権だが、実はこの軍クーデターを背後で操っていたのはアメリカだ。
アラブの春の嵐が吹き荒れた後、エジプトで初の民主的な大統領選挙が実施されて、イスラム原理主義組織であるムスリム同胞団出身のムハンマド・ムルシ大統領が誕生した。しかし、中東の大国であるエジプトに、穏健派とはいえイスラム原理主義の政権が根を下ろすのは、イスラエルとの関係上、アメリカにとって望ましくない。
それにムスリム同胞団には、イスラム教シーア派の幹部もいる。やはりアメリカと関係が深いサウジアラビアはスンニ派の国で、エジプトがイラン、イラクというシーア派のアラブ諸国(しかもサウジと国境を接する)と仲良くなることに警戒感を強めていた。わずか1年でムルシ大統領を解任に追い込んだ軍事クーデターの裏側では、このような地政学が働いていたのだ。
5月末に予定されている大統領選挙で、シシ前国防相が正式な大統領に選ばれる公算は大きい。シシ前国防相は米ペンシルべニア州にある米国陸軍戦略大学を卒業して米軍でも訓練を受けた経験がある。要するにアメリカとはツーカーの仲で、アメリカにとってコントロールしやすい人物なのである。
アメリカはウクライナのヤヌコビッチ前大統領をロシアの傀儡と断罪し、クリミアやドネツク州、ルガンスク州の分離独立問題でロシアを強く非難しているが、エジプトでは自分も同じようなことをやっているのだ。