中国の動向が大きなウエートを占める

Gゼロ時代の混迷は米オバマ政権の中東政策にも如実に表れている。アメリカの中東政策の基本は一貫していて、アラブの盟主であるエジプトとサウジアラビアと連携する。すなわちアメリカにとって内政問題でもあるユダヤ・イスラエル問題と石油利権を守ることだった。

しかし、昨今はシリア問題でロシアの提案を受け入れて妥協したり、イランの核開発問題でイランとの話し合いに応じて経済制裁を一部解除したりと、外交姿勢を軟化させている。煮え切らないアメリカの姿勢に苛立ちを募らせているのがサウジやイスラエルで、もはや両国はアメリカ、少なくともオバマ政権をまったく信用していない。

中東の石油利権に関しても、自国でシェールガスが大量に出るようになって、重要度は薄れている。アメリカは中東を守る理由を見失いつつあるのだ。

昨年9月にシリア攻撃を見送った際、オバマ大統領は、「アメリカは世界の警察官ではない」と公言した。習い性で紛争があれば口を出すが、多大な犠牲とコストを支払ってまで手(武力)は出したくないというのが、オバマ外交の本音だろう。

米ソ冷戦(G2)がアメリカの勝利で終結したとき、多くの人はアメリカのシングル・ヘゲモニー(G1)は今後50年は続く、と言った。しかしその後の湾岸戦争でも、イラク攻撃でも、アフガニスタンでも何らめぼしい成果のないまま、ずるずると後退するなかで、G1に対する期待も萎んでいった。

ドイツのメルケル首相とロシアのプーチン大統領の距離が接近している。(AP/AFLO=写真)

特にオバマになってからは学生の弁論大会みたいな高邁な演説はするが、世界の安全保障に責任を負う気もなく、目先の短期的な都合と利益で動き、ロシアにはG2時代の習い性でとりあえず反対する……。ヨーロッパの国々はそういうアメリカの本質を見抜いてきているから、シリア問題でも歩調を合わせなかったし、イランの核開発問題でも交渉の主導権を握った。ドイツあたりはロシアとの関係を重視して、メルケル首相とプーチン大統領は頻繁に(携帯電話で)連絡を取り合っている。

そしてアメリカもEUもロシアも都合のいいときに中国を使おうとする。中国は自分の意見を最後まで言わない癖がある。後出しジャンケンが得意なのだ。誰もが方向性を失っている時代に後出しジャンケンは効果的で、最後に中国が乗っかった陣営が有利になる。中国の動向が大きなウエートを占めるようになっているのも、答えのないGゼロの時代ゆえだろう。

逆に後出しジャンケンが苦手なのが日本とオーストラリアだ。判で押したような対米追従だから、意見を聞くまでもない。それでもアングロサクソン同士、アメリカは一応オーストラリアには聞く。しかし日本は尻尾を振ってついてくるという前提だから、何の打診もない。

Gゼロの時代において、先出しジャンケン専門の日本のウエートは軽くなるばかり。アメリカの腰が定まらないような事案、アメリカがどちらにつくかわからないときには、情けないことに日本はまったくイニシアチブを取れないのである。集団的自衛権で自民党が迷走するのは、もともと法案の趣旨が“アメリカの軍事負担を軽減するために”軍隊を送り込む、というアメリカの要請に基づいているからである。どういう要請があるかわからないので様々なケースを想定している間に、自分でわからなくなり議論が空転してしまうのである。これを「普通の国」と呼ぶ安倍首相の神経は「普通」じゃない。