知らず知らずに意識したコーヒーメーカー

だが、その一方で、田村氏たちは、コーヒーメーカーの開発を完全にあきらめたわけではなかった。いまとなって振り返れば、長年研究をし続けてきたコーヒーメーカーだけに、ズルズルと引きずり続けたという表現の方が正しかったかもしれない。そして、その当時は、それが、お茶メーカーの製品企画にマイナス要素を及ぼすとはまったく考えてはいなかった。

プロジェクトチームのメンバーの頭の片隅には、必ずコーヒーメーカーが存在していた。

その影響はすべての取り組みに影響した。

お茶メーカーのデザインは、自然とコーヒーメーカーのそれに似たものになっていたのもそのひとつだ。また、製品コンセプトも最近の流行を捉えて、カフェで抹茶ラテを飲むことを意識したお洒落なイメージを先行させた。これもコーヒー起点の発想だったといえよう。

誰もがコーヒーメーカーから離れられずに、お茶メーカーの製品化に取り組んでいたといえる。

開発に取り組んで約1年を経過した2013年夏。幹部を対象にした製品説明会が行われた。冒頭に触れた説明会である。

会議に提出された製品を見た幹部も、当然、そのデザインからコーヒーメーカーを意識する。突いて出てくる言葉は「コーヒーは作れないのか?」ということになる。そして、次に出てくる言葉は、「コーヒーを作れずにお茶だけで2万円を超える製品が売るのか」となる。議論のすべてがコーヒー起点になってしまったのだ。

「消費者もきっと同じ意見を持つに違いない。そして量販店においても、コーヒーメーカー売り場に置かれてしまい、数多くの製品の中に埋もれてしまうに違いない。これではコーヒーメーカーを開発しているのとなんら変わらない」

お茶によって、健康な生活を実現することを目指したのがお茶メーカー開発の発端だ。そこにだけフォーカスした製品づくりに戻らなくては、この製品は成功しない。そう感じた田村氏は、幹部向けの説明会が終わった直後、すぐにプロジェクトチームのメンバーを召集し、開発の原点に戻ることを提案したのだ。

知らず知らずのうちにコーヒーメーカーを意識してきたこれまでの考え方をすべて封印し、お茶メーカーとしてのモノづくりに、ゼロから取り組むことがこの製品の成功につながる。メンバーからは厳しい反対意見も出た。だが、田村氏はその意図を説明し、理解を求めた。

「この製品の入口は、『健康』である。そして、コーヒーメーカーのような後発の製品ではなく、世界初となるお茶メーカーを作るんだ」

会議が終わるころには、全員のベクトルがひとつの方向に向いていた。