暗黙知【2】――マニュアルに頼っていないか?
片側通行で一方的に話すというのも、「稼げない人」に多く見られる特徴です。話すことを事前に決めてから面談や商談に臨もうとする。こういう人は、セミナーなどで大勢を前にして話すのは得意です。事前にプロットを考えておけば、あとは時間配分に配慮しながら進めていけばいい。一方的に話しても、聴衆は取りあえず黙って聞いてくれるからです。
しかし、特定の相手との面談や商談では、こちらが一方的に話すだけでは会話になりません。会話にならなければ、相手を納得させたり、合意形成を図ったり、インスピレーションを刺激し合うことは不可能です。
●状況に合わせ臨機応変にトークを変えられるか
「稼げない人」が一方的に話してしまうのは、準備不足から相手の興味関心に合わせた話ができないことのほかに、視野の狭さも一因です。たとえば面談や商談の場で、「今日はこれを伝えなきゃ」「あれを聞かなきゃ」ということで頭が一杯になってしまう。あるいは、「今日こそは商談を決めてこい」と上司から発破をかけられて、緊張して委縮してしまう。
その結果、相手の都合や状況におかまいなく、事前に組み立てたマニュアル通りに話そうとします。それが相手の意に沿えば問題ありませんが、そうでなければ相手の機嫌を損ねたり、苛立たせてしまうことになります。後者の確率が高いのはいうまでもありません。
一方で「稼げる人」は、何通りものパターンを持っているので、相手の状況に応じて話し方を変えることができます。相手の状況は、会った瞬間に顔色を見れば大体わかります。もし相手の機嫌が悪そうならお金の話は次回にするとか、まずは相手の興味のある話から入って場の雰囲気を和ませようとか、瞬間的に判断して舵取りをします。
1億円を稼ぐのにマニュアルなどないように、話し方にもマニュアルはありません。マニュアルがないからこそ、事前に営業資料を読み込んだり周辺に取材するなどして、相手に関する情報をインプットする。そしていざ面談の場に出たら、相手の状況に合わせてトークを変えられるくらいの臨機応変さが必要です。そうしてはじめて、相応しい“落とし所”を見つけることができるのです。
コミュニケーションに限らず、人生においては選択肢が多ければ多いほど、成功する確率は高まります。要するに、人生とは「確率論」です。選択肢の一つにすぎないマニュアルに縛られることなく相手視点、つまり相手にとっての選択肢を多く持つように心がけたいものです。