給与格差がジェラシーにつながる

日本の管理職の年収がなかなか上がらないもう一つの理由は、税金である。給料が高くなっても、その分、所得税を取られてしまうから、給料が上がることに対するインセンティブが日本ではあまり働かない。

特に日本では年収が1800万円を超えてくると限界税率(課税所得に応じた適用税率のこと)が急激に上がる。海外企業の管理職として当たり前レベルの年収3000万円くらいになると、住民税を合わせて半分くらいは税務署に持っていかれるのだ。

だから日本では「手取りを高くしろ」というケースはわりと少なくて、「だったら、車を付けてくれ」とか「リタイアした後もゴルフ場を使わせてくれ」とか「海外旅行はファーストクラスで」などといったパッケージを要求する場合が多いのだ。

このような税制の問題もあって、世界と比べると割安な日本の管理職の年収を是正しよう、是正してくれという動きは一向に出てこない。

しかし、管理職の年収を抑えた給与体系をこのまま維持していたら、グローバルな人材確保に支障をきたす恐れがある。

今後、日本企業が生き残っていくためには本格的な世界化、グローバル化は不可欠だが、国内の人事給与システムをそのまま海外に持ち込んでも通用しない。となれば、当然、現地の給与水準を勘案してヘッドハンターを使って人材を手当てすることになるが、それはそれで問題を引き起こしやすい。

もう日本の企業には人を紹介しない

現地で採用した子会社のトップや買収先のトップが、日本の社長の年収の3倍などというケースはざらにある。そうした給与格差がジェラシーにつながる。自分で雇っておきながら、「俺の3倍の給料をもらっていながら、この忙しいときに優雅にバケーションとは許せない」という感情が噴出してくるのだ。

この手のトラブルで社長のクビがすげ替えられるケースを何度見たことか。ヘッドハンターから「もう日本の企業には人を紹介しない」と言われたこともある。人事給与システムのダブルスタンダードはこうしたクラッシュを引き起こしやすい。

人事給与システムを一本に透明化して、「こういう仕事をすれば、どの国の誰がやってもこの給料になる」ということを説明できなければ、本当のグローバル企業とは言えない。その意味で言えば、日本にグローバル企業はいまだ存在しない。

(小川 剛=構成)
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