なぜ浅田真央は復活できたのか
古い日記を読み返した直後に、ソチ五輪が開催された。女子フィギュアに出場した浅田真央選手はショートプログラム(SP)で信じられないような失敗を繰り返し、16位に沈んだ。演技終了後のインタビューで「何もわからない……」と放心状態で語る姿を見るのは辛かった。彼女と私では背負っているものの大きさがまったく違うが、過去の自分の逆境と彼女の姿が重ね合わさった。
彼女が体験したような深いどん底を私のような一般人が理解することはできない。しかし、大なり小なり人は思い通りにいかないことを体験し、逆境に晒される。壁にぶつかり、壁にはね返され、無力感に襲われ、打ちひしがれる。
大事なのはそこからだ。仕事とは「壁」そのものだ。壁と感じないような仕事はそもそも仕事などではなく、単なる作業にすぎない。きっちりとした仕事ができるような人間になりたいと思えば、その壁を乗り越えていくしかない。
浅田選手は見事に復活した。フリーでトリプルアクセルを含むジャンプすべてを成功させ、自己ベストを更新した。演技終了直後に見せた涙に日本中が感動した。ソチ五輪後の世界選手権でも3度目の優勝を果たしている。
精神力の強さもあるだろう。しかし、それ以上に大事なのは、それまでにどれほどの努力を積み重ねてきたかだ。本番は練習通りにはいかない。SPはさぞ無念だったろう。でも、その彼女を逆境から救い出したのも、また練習だ。
逆境を経験するから、人は強くなる。そして、謙虚になれる。真の力をつけるとはそういうことなのだと今は思っている。