イノベーションとは、単なるハードに限らない。また特にITにおいては、メーカーだけではなく、ユーザーの視点から生み出されることも多い。たとえばGoogleを創業したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、ユーザーの視点からイノベーションを起こした。日本では森川亮氏が「LINE」というイノベーションを起こしている。

すでにある技術を組み合わせることで、社会的に必要性のあるものを生み出すこと。それがいまのイノベーションである。「次のジョブズ」はユーザーの側から生まれてきても不思議はない。むしろユーザーの立場に近いものほど、可能性が大きい。したがって大企業からではなく、小さな企業からイノベーションが生まれるチャンスが広がっている。

翻って、いまの日本は第二、第三のジョブズが生まれてくる時期を迎えているといえる。つまり、「崖っぷちの企業」と「優れた経営者」の組み合わせから、新しいものを生み出す時期にきている。

私は日本企業の改革について、「企業を2つに分け、既存の事業を行う組織と新しいことに注力する組織につくり替えよ」と公言している。第一で従来型の経営を続け、第二では創造的な取り組みをする。旧体制をつくり替えるのは難しいが、新たに「第二」を走らせることで、新しい芽を育てていく。

これは経営者にも同じことがいえる。日本の経営者には、リスクをとって挑戦するより、無難に経営をこなし、死ぬまで会社の鎧を脱がない人が多い。「第二の人生」では、もっと自由になってほしい。そうすればアイデアも生まれるはずだ。

クオンタムリープ代表 
出井伸之

1937年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。60年ソニー入社。95年社長就任。99年よりCEOを兼務。2000年会長兼CEO。05年退任。06年、クオンタムリープを設立。
(構成=山田清機 撮影=門間新弥)
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