低予算のなか、森岡は持ち前のマーケティング力を駆使し、アイデアを出した。
●目の錯覚を利用したトリックアートをパーク内に散りばめる
●クルー(従業員)が突然楽器を鳴らしながら踊り始めて、客を楽しませる
当時はまだ他のパークでは見られなかったサプライズ企画を森岡主導で打ち立てたのだ。また、漫画・アニメ「ワンピース」のショーもパワーアップさせた。
「これなら、新アトラクションはなくても昨年対比プラス8%も達成できる」(森岡)
いい感触をつかんでいた矢先……あのM9.0の大地震と大津波が列島を襲った。
震災による集客の落ち込みは4月に入っても収まらず、10周年の集客目標は誰の目にも達成不可能に見え、社内は重苦しい空気に呑み込まれたという。
「自粛ムードの潮目を変えなくてはならない」
そのとき森岡がひねり出したアイデアは、「キッズフリー」。子供を無料にするという突飛な案に上司も部下も絶句し、「10%オフにしたら?」「せめて半額で!」と猛反対した。
それでも、結局「子供は入場料無料」が決定したのは、「関西から日本を元気に!」というメッセージを発信し、大震災の衝撃で心を痛める日本中から肯定的に受け止めてもらうことが、USJを再起させるために必要なアイデアコンセプトであると周囲が認めたからだろう。
「震災ショック」はキッズフリー作戦というウルトラCで切り抜けた。だがピンチはまだ続く。10周年を成功させなければ、14年のハリー・ポッター計画が頓挫する可能性があったのだ。
「2011年に当たったのは、『ハロウィーン・ホラー・ナイト』です。ゾンビに扮装したクルーをパークに放って、パーク全体をお化け屋敷にしたのです。昼とは違う、夜のダークサイドな"コワ楽しい"体験は大ヒット。日本人のハロウィーンの楽しみ方自体を変革して、毎年巨大な需要を作り出すことに成功しました」(森岡)
窮地を救う、森岡のアイデア力。次回以降、その源泉と発想の手法に加え、上司説得術、部下操縦といったスキルを具体的に明らかにしていく。(文中敬称略)
(角川書店刊)
今回インタビューしたUSJのV字回復の立役者・森岡毅氏が約3年間の復活のプロセスを執筆したビジネス書。独自のフレームワークを駆使したアイデア発想法など仕事で使えるスキルが満載。