自粛ムードで計画頓挫の危機
2011年3月12日朝の出来事を、森岡は「全身から血の気が引いていくような感覚だった」と振り返る。
「毎時間あたりのゲストの入りをチェックするのが私の日課です。もちろん、あの大震災の翌朝なので相当低い数値を予想していました。でも、その数値のさらに半分しか入らなかったのです。最初はシステムのエラーかと思ったのですが、オフィスの上階にあるパークチケットブースに上がり、実際に来場ゲストの数を目の当たりにして、文字通り目の前が真っ暗に感じたのを覚えています」
2011年3月11日に発生した東日本大震災。その影響はUSJのある関西にも及んだ。
とりわけ震災後に日本全国を覆った自粛ムードがエンターテインメント産業であるUSJを窮地に立たせたのは確かだ。
実は、震災のわずか約1週間前に10周年イベントがスタートしたばかり。そのイベントのいわば実行隊長的存在が、森岡だった。
P&Gなど外資系企業を渡り歩いてキャリアを積み、2010年に "マーケティングのプロ"として招かれた森岡。まずやらなければならなかったのは集客数が700万人台にまで落ち込んでいた問題点をあぶり出し、テコ入れすることだ。
そこで森岡がぶちあげたのは、前出の新施設「ハリー・ポッター」を数百億円かけてつくる前代未聞のプロジェクトだった。年間売上が800億円程度の企業が手掛けるには、あまりに無謀な賭けである。逆に言えば、それほど当時のUSJが追い込まれていたということだろう。
新施設の完成予定は2014年。その一大プロジェクトにパークの命運を賭け、背水の陣で予算を投入する分、10周年を迎えた11年からの3年間、「金がない、人手が足りない、時間もない」という三重苦の状態になった。それでも、この間を黙って耐えていればいいというほど余裕はない。