なぜ「全員経営」が必要なのか

2009年2月に発表された日経産業地域研究所の好きな衣料ブランド調査で、ユニクロはバーバリーに続く2位に選ばれた(3位ルイ・ヴィトン)。「あらゆる人がいいカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」というユニクロのブランドメッセージは、日本に浸透し、支持を得た。

今後の課題は「グローバル化」「グループ化」「再ベンチャー化」。世界にユニクロを広め、さらに進化を遂げていく。そのために、柳井社長は「グローバルワン」「全員経営」を標語に掲げた。


カリスマデザイナー佐藤可士和氏が手がけたソーホーのニューヨーク店。

柳井「僕は常日頃から、『全員経営』ということを言っています。もともとは松下幸之助さんの言葉ですが、『全員が経営者マインドを持つ』という意味で僕は使っています。今の時代、あらゆる階層の人にとってリーダーシップがなければ仕事はできません。

ひとりで仕事ができる人なんていないでしょう。自分が思っているような成果をあげようと思ったら、そこにはリーダーシップが必要になるのです。

不幸なことに、これまでの会社は軍隊や官僚の組織を見本にしてきたところがあります。そういう組織では、上の人が言ったことを下の人が実行する、といったかたちで、意思も責任も分断されていた。そういう時代はもう終わったのです。

今のような『平時が危機』の時代では、最新の情報を持っている現場の人間が、その都度関係者と協議しながら、その場で判断していかないと物事が進みません。また、現場の人が自律的に判断していこうと思ったら、まず自分はこういうふうにやりたい、やるのだという意思を持たなくてはなりません。組織を構成する一人ひとりにリーダーシップがなければ、会社はまわっていかないのです」

2008年、『FAST RETAILING WAY(FRグループ企業理念)』を策定し、グローバルでの理念の共有をはかった。同時にFRMIC(ファーストリテイリング・マネジメント・イノベーション・センター)を開設し、柳井社長の分身を育成していく。

柳井「いい会社とそうでない会社は何が違うのか。それは、『経営をやっているかどうか』だと僕は思います。では、経営とは何か。それは『実行すること』です。これ以外にない。

いい会社と悪い会社でやっていることは、表面上はほとんど一緒です。やるべきことも一緒です。何が違うかといえば、どの程度までやるのか、どの水準を目指すのか、それだけです。

リーダーが泥まみれになってやらない限り、下の人間が泥まみれになってやろうなどと思うわけがないでしょう。ただ、上から命令して、ほかの人が実行したことを評価するだけの人はリーダーではない。リーダーになったら、嫌な仕事はしなくてもいいのではなくて、むしろ、嫌な仕事を正面から引き受けていかなくてはならない。それは、たくさんある課題に優先順位をつけて、最も重要なものから取り組んでいく、ということです。

何をすべきかがわかったら腹をくくって率先して取り組まなくてはなりません。リーダーから動かない限り、組織は動かないのです」

※すべて雑誌掲載当時

(野崎稚恵=文・構成 澁谷高晴(人物)、市来朋久=撮影)