他の五感を使い、適切なトレーニングを
ただし、算数障害は脳の機能障害ですから、少しでも早く適切なトレーニングをすることで、状態像は改善されます。“障害だから治らない、だからできるところだけを伸ばせばいい”などとは考えないことです。計算ができないタイプの場合は、九九でもつまずくケースが多いですから、そこがひとつのチェックポイントといえます。
例えば九九ができない場合。九九は言えなくても、理解し覚えられればいいわけです。それには、大人が指導の仕方を変える必要があります。一般的には九九を教えるとき「ににんがし、にさんがろく」と音にして覚えさせますが、子供によっては、頭の中でそろばんの玉を連想したり、2×2=4、2×3=6といった数字を思い浮かべたほうが覚えられるかもしれません。視覚的に覚えられないなら、指先などの感触を使ったり体で表現するなど、ほかの五感を使うことで理解し、覚えられるケースはたくさんあります。
私がこの本を出そうと思ったもう1つの理由は、計算や数学的思考ができないと、将来生きていくのに困難が伴いがちだからです。
計算が苦手なら電卓を使えばいいと思われる人もいるかもしれませんが、電卓を使えない場面は、日常生活でかなりあります。例えば、小売業でおつりを出すとき、友達とお茶を飲んでワリカンにするときもそうです。2ケタの暗算がある程度できないと、本人が失敗を重ね、自己効力感の低下に直結します。また、計算はできても数の概念がわからないと、1/3+1/3の答えは2/3と解けるのに、「ケーキを1/6に切って」と言ってもうまく切れなかったりして対人関係にトラブルが生じやすくなります。
専門家の判断は仰ぐべきですが、日常生活や遊びのなかで、算数障害の可能性を見つける機会はあります。算数障害の子供は、得てして視覚や空間を把握する力が弱いといわれますので、そのあたりも注意してみていきたいところです。