【田原】韓国も20世紀はなかったと思う。でも20世紀にこだわっていて、21世紀を見てない。あと、アメリカはどうですか。アメリカは20世紀があったでしょう。

【猪子】アメリカは東海岸が経済の中心でしたからね。でも、情報化社会になって、西海岸に社会の中心が移った。シリコンバレーの人たちは、未来志向の塊。彼らのほうが、今や20世紀の人たちより発言権は強いです。大学も、もはやハーバードよりスタンフォードのほうが評価は高いしね。

大阪大学医学部と共同で解剖書をデジタル化した「teamLabBody」

【田原】なるほど。スタンフォードといえば、Googleの創業者のセルゲイ・ブリンはいまだにスタンフォード大学に行っているといいます。猪子さんの会社も、日本の大学と関係を持っているのですか。

【猪子】持ってますよ。この前、大阪大学の教授と共同で、3D人体解剖アプリ「teamLabBody」というのをつくりました。じつは関節の動きって、生きている人間と死んでいる人間では違う。先生は、生きている人の体を10年くらいかけてCTとMRIで撮って解析した。それを僕たちがソフトウェアにしました。これはUnity Awardsの最優秀ビジュアルシミュレーション部門で、世界で1番をもらいました。

【田原】それはおもしろいね。好きな角度から見られるのか。アートはよくわからなかったけど、これはいい。猪子さんがやっていることが、やっとわかった。今日は話を聞けてよかった。

田原総一朗が見た猪子寿之の素顔

これまで猪子さんには、「朝まで生テレビ」(テレビ朝日系)に数回出てもらっている。特徴のある話し方が印象的で、天才的なことをいう人だと思っていたが、どのような仕事で才能を発揮しているのか、いまいちわかっていなかった。しかし今回、猪子さんたちが手がけた作品を見せてもらい、彼がやっていることがよくわかった。

猪子さんは、「日本は20世紀にこだわり、前に進んでいない」という。たとえば人の話を聞くとき、日本ではノートPCでメモするのは失礼にあたる。しかしアジアは逆で、紙のノートにメモを取ると、「それじゃ情報共有できない」と怒られるそうだ。このエピソードは印象的だ。猪子さんのような若い人に、ぜひ日本の21世紀をつくってほしい。

猪子寿之
1977年、徳島県生まれ。96年徳島県立城東高等学校卒業後、東京大学教養学部理科I類に入学。アメリカ、イギリスに1年間遊学。東京大学工学部計数工学科卒業と同時に、チームラボ創業。2006年産経デジタルのニュース・ブログサイト「iza」を開発。以後、世界各国で最新のデジタルアート事業を精力的に展開中。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。活字と放送の両メディアで評論活動を続けている。『塀の上を走れ』『人を惹きつける新しいリーダーの条件』など著書多数。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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