アウンサンスーチー女史が模索する「現実路線」

拙著『これ1冊ですべてわかる!ミャンマー進出ガイド』で詳しく述べているが、現行憲法下では、アウンサンスーチー女史は大統領の就任要件に欠ける。彼女が大統領になるためには、憲法改正が必要。これは議会の4分の1を固定席で占める軍の理解を得る必要もあり簡単な作業ではない。トゥラシュエマンは、国民が望むなら憲法改正をすればよいと述べているが、その前段階として、自らがまず現行法上の手続きに従い大統領に就任し、アウンサンスーチー女史を、連立政権内において、首相級あるいは外務大臣と重用しタッグを組むことを検討しているという現地情報もある。

アウンサンスーチー女史は、現在、欧州歴訪中で、欧州委員会に対して、ミャンマーの民主化の後押しのために現政権に圧力をかけるよう要請したり、2015年の総選挙前の憲法改正を盛んに訴えたりしている。このスタンスは、今年4月の彼女の訪日時のスタンスと変わらない。外国からの圧力でミャンマーの民主化を後押しし、海外世論を背景に憲法改正も実現したいというスタンスだ。しかし、現実的に、憲法改正のハードルが極めて高いことは彼女自身がよく理解しているはずだ。

おそらく彼女は、現状分析の中で、ポストトゥラシュエマンも展望し、まずは連立政権において疑問視されている自らの政治手腕への国民の不安を払拭し、再びスーチー大統領待望論を国民の中から沸き起こし、政権内において軍の理解も得ながら憲法改正の道筋を作るという現実路線構想にシフトしているのではないかと思われる。また、NLDとすれば、人材不足から政権担当能力を疑問視される中、まずは連立政権において、USDPや軍の力も借りながら、政権運営で実績を残すことは、極めて重要な国民へのアピールになると自覚しているのであろう。