初期投資を抑えられるレンタル工場も人気
「1980年代半ばに2%台だった日本製造業の海外現地生産比率が、今や20%超。その進出先については近年、中国からASEAN地域に大きくシフトしています。実際、当社が展開するベトナムやインドネシアの工業団地の入居企業はほとんどが日系企業です。そこで私たちは、進出検討時からのワンストップサービスを提供させていただいています」
こう語るのは大和ハウス工業の浦川竜哉常務執行役員だ。建築事業の担当役員として、国内や東南アジアで事業施設の開発・運営を統括している。同社にとって海外初となる工業団地、ベトナム「ロンドウック工業団地」の開発について、そのスタート時から差配してきただけに「海外進出に賭ける経営者の思いはよくわかる」と言う。
「皆さん不安を抱えていらっしゃいます。まず現地法人設立の手続きからして簡単ではない。そのほか、現地ニーズの把握や取引先の確保、人材採用など、日本とは事情が大きく異なりますから、私たちが現地オフィスと連携しながらサポートしています」
ロンドウック工業団地の開発がスタートしたのは2012年。大和ハウス工業のほか、総合商社の双日、環境プラントメーカーの神鋼環境ソリューションが出資し、ベトナム国営企業ドナフーズの保有地を活用する大規模プロジェクトだった。この工業団地の一番の特徴はすべてにおいて“日本品質”を重視している点だ。設計・施工から完成後のプロパティマネジメントまで大和ハウス工業が主導。さらに、セキュリティ警備や給食サービスに至るまで、協力会社と連携して日本と同等のサービスを提供している。
「ロンドウック工業団地については全区画のすでに85%が販売済み。加えて現在は、団地内に設けている“レンタル工場”も人気です。レンタル工場であれば土地や建物を購入する必要がありません。初期投資を抑えて海外事業を実現し、軌道に乗ってから次の展開を考えることが可能です」と浦川氏は説明する。
多様なスキームで企業のニーズに応える
ベトナム、インドネシア、タイは、いずれも親日国家として知られている。GDP成長率は高く、生産年齢人口も豊富。また、爆発的な伸び代を持つ消費市場としても将来有望な地域だ。なかでもインドネシアの人口は約2億5000万人で世界第4位。大和ハウス工業がベトナムに続いて開発を進めているインドネシア「ダイワ・マヌンガル工業団地」は製造基地としての機能のほか、内需拡大に伴い物流拠点としてのニーズも急速に高まっている。
「ダイワ・マヌンガル工業団地は、日本企業が出資しているものとしては首都ジャカルタに一番近い工業団地。最近は冷蔵冷凍機能を備えた高機能物流センターへの要望も強いですね。また、ここではレンタル工場以外にも、新たにマルチテナント型の物流センターを開発しています。第1期はすでに満床で、この5月から第2期工事をスタートさせる計画です」
ニーズをとらえて最適なソリューションを提供する──顧客企業の戦略に応じて多様なスキームを組み合わせる同社の「Dプロジェクト」は海外でも効果的だ。一社専用の「BTS(ビルド・トゥ・スーツ)型」の物流ソリューションは、ベトナムやインドネシアでも日系大手企業が採用。常温・定温・冷蔵・冷凍の4段階で温度管理できる物流施設などは、大和ハウス工業のブランド力を現地に浸透させる一因となっている。
「そのほか、定期借地や不動産流動化などのスキームもご提案が可能です。現地の法律の範囲内であれば日本と同様にさまざまな対応ができますので、まずはご希望をお聞かせください」
進出企業の生の声を聞ける機会も提供
大和ハウス工業が開発した工業団地は日系企業の事業活動はもちろん、当該国の経済成長にも大きく寄与している。例えば、先述した4温度帯の物流システムはインドネシアやベトナムでのコールドチェーン普及に大いに役立っている。
「現地でのビジネスの最新事情、またそこで求められていることなどをつかんでいただくため、海外進出を検討されているお客様に、すでに進出済みの企業様の声をお聞きいただく機会なども設けています。メリット、デメリットを含め、生の声を聞くことができれば、やるべきことも見えてくるはず。結果、別の地域への進出をお決めになったとしても、それはもちろん構いません。まずは現地での可能性を感じていただくことが私たちの役目だと思っています」
ビジネスの戦略書を何十冊読んでも海外で成功する秘策を手にすることは難しいが、自ら海外展開でハードな経験をし、リアルな現場を知ることの重要性をよく理解している浦川氏の意見は貴重だ。
大和ハウス工業では、海外進出する企業に国内の工場跡地などが発生する場合、その有効活用もサポートしている。土地や建物について、その一切を引き受けることができる総合力が同社の強みだ。国内、国外を問わず、多彩な経験と実績に基づいて提供される日本品質のワンストップソリューションは、多くの企業にとって大きな助けとなるに違いない。
東南アジアへの進出を力強くサポート
●ベトナム
ロンドウック工業団地
ベトナム最大の商業都市ホーチミンの郊外に立地し、総開発面積は270ha。大型船が接岸可能なカイメップ・チーバイ港まで約34km、ホーチミン市街地まで約42kmと両地点の中間点に位置している。そのため、製造・物流拠点としての利便性は高い。2025年には近接地に新国際空港もオープン予定だ。団地内にはサービスセンターを開設。税関、人材サービス、診療所のほか、日本食レストランやコンビニなども充実している。
●インドネシア
ダイワ・マヌンガル工業団地
ジャカルタ中心部から約30km。高速道路のチビトンインターチェンジと直結するほか、スカルノハッタ国際空港まで約55km、タンジュンプリオク港まで約35kmと交通アクセスに恵まれている。総開発面積は約1350haと広大。敷地内には工業高校があり、現地の優秀な人材の確保も可能だ。敷地内外には、サービスアパートメントやホテル、銀行、マーケット、ゴルフ練習所などもある。
●タイ
WHAダイワロジスティクスプロパティ
2016年7月、大和ハウス工業は「WHAダイワロジスティクスプロパティ」を設立。タイで物流施設や工場の開発などを展開する最大手のWHA Corporation PCLが開発中の「レムチャバンプロジェクト」「バンナプロジェクト」に参画し、物流施設の開発・運営・管理・賃貸を進めている。これまで培ったノウハウを生かし、海外で物流施設の設置を考える企業を支援していく計画だ。