藤原氏には2つの見通しがあった。第1は、オーバーシーディングなどの校庭の芝生のメンテナンス費用についてである。校庭の芝生化は、新しいプロジェクトだ。教育委員会も失敗させたくないはずである。予算面での継続的なサポートが得られる見込みは高そうだ。そうなると、第2は、マンパワーをいかに確保するかである。

コンクリートに覆われた都会では、学校の緑が美しく保たれていることは地域の資産である。藤原氏は、地元の人たちに声をかけていた。このネットワークを使って、何人かの商店会長や町会長に掛け合った。最終的には、商店会長の1人と、PTA会長のご主人が、毎週学校にやってきて、芝生の手入れをしてくれることになった。

やがて、これが呼び水となり、高齢者を中心とした地域の人たちや、父兄たちが、その輪に加わるようになった。生徒たちもまた時折まじって、教わりながら手伝うようになった。活動の場は、毎週の芝刈りや雑草取りから、花壇の手入れ、中庭の芝生化、東側の荒れ地の開墾、ハーブ園、ブルーベリー畑づくりへと広がっていった。校内の荒れ地は畑になり、そこで収穫されたキャベツが給食に使われたりするようになった。制約だらけで、身動きがとれないように見えた現実は、確実に変化していった。

制約だらけに見える現実のなかに、新たな状況を拓く。この校庭の芝生化事業のなかにも、そのためのポイントが幾重にも詰まっている。以下、そのことを確認していこう。

図を拡大
図1 9点連結問題

まず、そこでは、視点の転換が実現している。この局面において藤原氏が何を行ったかをとらえるために、心理療法家のP・ワツラウィックたちによる「9点連結問題」を紹介しよう(『変化の原理』法政大学出版局、42~44ページ)。課題は、図1の9つの点を、1つながりの4本の直線でつなぐこと。ただし、9つのすべての点を必ず1回ずつ通るようにしてほしい。

どうだろうか。うまく課題通りに9つの点をつなぐことができただろうか。解答は本文の最後に。