ウオーターフロントの不動産は売りどき
湾岸エリアといえば、2020年夏季オリンピックの東京開催が決定してから、ウオーターフロントの新築マンションのモデルルームは連日の大賑わいをみせているという。東日本大震災で深刻な液状化に見舞われた場所である。ライフラインの寸断や建物の傾斜など大きな被害を受けた千葉県浦安市では、液状化対策が不十分だったとして売り主の三井不動産と関連会社が被害住民から訴えられた。
消費税アップ前の駆け込み需要に五輪特需が重なったとしても、震災からわずか2年半しか経っていない。それなのに、液状化リスクが残されたままのウオーターフロントの高層マンションが人気というのだから、喉元過ぎれば何とやらの極みだ。
豊洲辺りの高層マンションのモデルルームから「あそこがオリンピック会場で、あの辺りが選手村になります。20年に向けて東京が変わっていく様子を楽しめそうですね」とテレビのリポーターが紹介していた。オリンピックを避けるのが“東京の住人の知恵”というもの。どうして混雑することがわかっている場所にわざわざ家を買うのか。近所で工事が始まれば煩いだけ。もちろん、競技をベランダ越しに観戦できるわけでもない。
「今のうちに買っておけば、オリンピックまでに資産価値が上がるかも」という声もある。確かに50年前の東京オリンピックのときには人口増と建設ラッシュで、周辺施設の不動産価格は急上昇した。しかし人口減少社会に突入した今の日本では、オリンピック開催の20年に向かって不動産価格が持続的に上昇していくとは思えない。
私の経験からいうと、土地や不動産を売ったり買ったりするチャンスは10年から15年に1回やってくる。ところが日本人には「おしなべて売るべきときに買って、買うべきときに売るという不思議な行動特性」がある。海外は全く逆だ。日本人が高値で買って損切りした物件を底値でさらっていくのは大概、中国人だ。『金持ち父さん 貧乏父さん』ではないが、本当の金持ちは皆が浮かれているときには絶対に一緒に浮かれない。むしろ「日本人が飛びついているときは売り」という経験則に照らせば、ウオーターフロントの不動産は今は買いどきではなく、売りどきだろう。
そもそもオリンピックまでの7年間、ずっと浮かれていられるはずがない。開催都市に決まって盛り上がるのは、開催決定後最初の半年と、聖火リレーが近づいてくる最後の半年ぐらいだ。16年に夏季五輪が開催されるブラジルのリオデジャネイロを見ているとよくわかる。
14年のサッカーワールドカップ、16年のオリンピックの開催招致に成功したブラジル。国民が大熱狂したのは、ルラ前大統領の時代で、当時は同国の経済も絶好調だったが、今や景気低迷と高インフレのダブルパンチでフラフラの状態だ。
当初は14年のワールドカップまでに開通させる予定だった新幹線(ブラジル高速鉄道)は着工どころか、いまだに入札すら行われていない。3年後のリオ五輪にもまず間に合わないだろう。「オリンピックやワールドカップのためのスタジアム建設に使う金を福祉に回せ」などと要求するデモも頻発して、国内はお祭りムードとはいいがたい。