時価で評価するかどうかで「数字」は変わる

ではこの埋蔵金、実在するのかといえば、先ほど述べた通り、私は懐疑的である。

近年、外貨準備が急に増えたのは2004年頃なのだが、この時期にわが国は約3000億ドル分の米ドルを買って為替介入を行っている。そのときの介入点は、1ドル105~106円。

では、現在の円・ドルの為替レートはどうなっているかといえば、ご承知の通り1ドル80円前後である(2012年5月時点)。つまり04年当時を基準に考えると、1ドル当たり約25円もの為替差損が生じている計算になる。つまり、現在わが国が所有している1兆ドルの外貨準備は、埋蔵金を掘り起こすどころか20兆円を超える巨額の含み損を抱えているというのが、私の解釈なのである。

別の言い方をすると、埋蔵金は時価評価をすれば存在しないが、時価評価をしなければ存在することになる。政府は「時価評価なんかしなくたって、為替レートが以前と同じ水準に戻れば済む話じゃないか」というスタンスだと考えられるが、同じ政府が上場企業に対しては時価会計を強要しているのだから、おかしな話である。

一般に数字とは、物事に具体性、客観性を持たせるものである。しかし、この埋蔵金の例が示すように、解釈の仕方によって数字が存在したりしなかったりするケースもあることを知っておかなくてはならないだろう。

小宮一慶●1957年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院留学(MBA)。96年小宮コンサルタンツを設立。著書に『1番わかる!ロジカルシンキング』(PHPビジネス新書)、『ビジネスマンのための「数字力」養成講座 』(ディスカヴァー携書)など多数。
(構成=山田清機 撮影=市来朋久)
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