判明! 論文が読まれない理由

――33歳で23本の論文、かなり多いほうだと聞きますが。

前野「多いと思います。けど、届いてない。自分としては『これだけ徹底的にやってるのに、なんで引用されないの?』って不思議だったんですけど、名前が売れていないということが理由だったんだと。学会で会って、話して、仲良くなって、そこでようやく、論文をチェックしてくれるようになるんだとわかりました」

――けっこうアナログな人間関係の世界なんですね。

前野「ええ。『人間関係? そうなのかっ!』とびっくりしたところはありました」

――会場での出会いはありましたか。ブログに《「お前があの研究した前野かっ!!」みたいなことがあったら超嬉しいな》と書かれていましたが。

前野「……一部、何人かはそういう人もいたんですけど……。中国人でトノサマバッタの研究している人と名刺交換したんです。『ああ、プログラム見たけど、私と同じような研究をしてるんだね』って程度で……。こっちは『いやいやいや、論文出してんスけど! 読んでないんじゃーん!』と、かなり衝撃を受けました」

――しかし、ババ所長の代打で、次回開催地の誘致活動プレゼンもやった。名前を売ることはできましたか。

前野「所長にも考え、あったと思うんです。所長はバッタ学会ではけっこう有名人で、西アフリカの代表も務めています。今回も何人もの人に『所長に会えなくて残念。よろしく言っておいてね』と言われました。誘致の会合に代打で出たことで、トップレベルの人たちとも顔見知りになれました。これは、大役を若者に与えることで、ふつう会えない人に会えるトレーニングをさせたいという所長の配慮もあったんじゃないかなと」

――仲良くなった人はいますか。

前野「今回はフランス、ベルギー、イギリス、アメリカ(2名)の計5人と集中的に仲良くなって、共同研究の話も進めています。そのうちの1人が、前からすごい尊敬している人で、その人の仕事は自分、ぜんぶフォローしているという人がいて、その人には、あらかじめ用意した自分の今までの論文を入れたUSBメモリを渡しておきました」

――USBを渡すというのは、国際学会では一般的なんですか。

前野「基本はペーパーとメール、あとはCD-Rなんですけど。いずれはバッタの絵を付けたデザインのUSBをいっぱいつくって、学会で配りたいです。それでようやく論文を読んでくれるんだろうな、と」