表現されない実力はないに等しい

「しぐさ」の専門家であるデジタルハリウッド大学教授の匠英一氏も日本人の話し方の特徴についてこう説明する。

「日本のビジネスマンや経営者たちは基本的に堅実で目立った動き方がなく、“しぐさ”も控えめです。インパクトがなく、他人から見てわかりやすいことが取り柄です。これまではそうしたリスクヘッジができて、バランス感覚に優れ、とくに上役との調整が上手な『家康タイプ』が出世してきました。ところが鳴くまで待とうの精神では、いまの部下たちを動かすことはできないし、国際競争で勝ち残ることもできない。これからは豊臣秀吉スタイルの社員が出世していく時代になります」

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守りのコミュニケーション、攻めのコミュニケーション(PANA=写真)

両者の違いはコミュニケーションに表れる。家康スタイルは“守りのコミュニケーション”だとすれば、秀吉スタイルは“攻めのコミュニケーション”。アイデアが豊かで、相手の心を掴む力が卓越している。褒めるときは大げさに表現して、相手をよろこばせる。部下だけでなく、顧客もよろこばせる発想ができてこそ、グローバル時代、ネットワーク時代に活躍できるというのである。

1980年に日本で初めてパフォーマンス学を提唱した日本大学芸術学部の佐藤綾子教授は、多くの経営者にコンサルティングした経験から次のように話す。

「日本の経営者は、ビジネスの成功は自己表現の成功によってもたらされることにまだ気づいていません。いい製品さえつくれば、そのうち理解してもらえると信じている。そんな発想はグローバル社会では通用しません。企業のトップは“実力”と“表現”の両輪を備えてこそ一流なのです。表現されない実力はないに等しい。韓国や中国がいい製品を安くつくる時代になったとき、例えばユニクロの柳井さんがどんなプレゼンをできるのか。これにビジネスの勝敗がかかってくるのです」