言葉の中身は関係のない分析

声から感情を認識する技術・「こころ コンパス®」は、東大をはじめとする産学連携をもとに開発された。「こころ コンパス®」は、言葉、国籍、性別、年齢、個人差の影響を受けることなく、音声から感情をリアルタイムに認識することができる。それは「こころ コンパス®」が言語の意味内容について“注目しない”という画期的な分析手法を用いているからだ。近年、この技術の活用事例が増えてきた。例えば、コールセンターで多く活用されている。収集された音声ファイルから感情を解析することで、言葉には出さない顧客の「うれしい」「対応が悪い」といった感情を視覚化することが可能になった。同時に、オペレータのモチベーションを把握でき、コーチングを視覚的に手助けするシステムとして利用され、離職率が大幅に改善されたケースもある。

さらに、被災地ボランティアの音声を取得し、彼らの気分状態を分析することで、疲れを感じるスタッフの心の元気度を見守るサービスとして復興支援にも利用されている。

この技術の身近な使用方法としては、自分の日々の気分状態を測定し、メンタル面からの健康状態を声のデータから知ることができる。その結果を受けて、自分自身の生活態度などを変化させることで、通常では自分自身でも気がつかないような心の健康状態を保つことが可能となる。この技術は第86回日本産業衛生学会で紹介され、企業のメンタルヘルス対策への活用も期待される。

今回、プレジデント編集部の求めに応じて、「こころ コンパス」による安倍晋三総理大臣の音声分析を試みた。具体的には、安倍総理が1度目の任期途中で退任を表明した演説(2007年9月12日)と、直近の国会の施政方針演説(13年2月28日)をそれぞれ分析し、比較することだ。

分析の結果、両者には歴然とした違いが表れた。

退任表明演説の際には、声の感情成分がほとんど検出されていないのがわかる。また、脳の活動状態を表す値が極めて低い状況にあり、興奮の感情がほとんどない状態だった。