示談での慰謝料は高額を期待できず

しかし、それでも腹に据えかねて、発信者に謝罪ないしは何らかの賠償をさせたいと思う人もなかにはいる。私が関わった範囲では、そういう人が全体の8~9割ぐらいにのぼる。

その場合、IPアドレスからネット検索などで特定した接続業者に対して「発信者の氏名・住所の開示」を請求する訴訟を起こすことになる。

その際、訴える側に有利に働くのが、10年4月8日に最高裁が出した判決である。これは、ネット上で名誉毀損などに当たる書き込みがなされた場合、接続業者に発信者情報を開示する義務があるとしたものである。実際に熾烈な争いになることはまずなくて、数回程度の口頭弁論で終わることも多い。

こうして、発信者本人が判明すれば、今度は発信者、すなわち加害者を名誉毀損で民事訴訟に持ち込めばいい。ただ、示談になることもままある。「2度とやらない」という旨の念書を取り、慰謝料を受け取るわけだ。

しかし、示談での慰謝料は高額を期待できないことも多く、判決になれば弁護士費用は損害額の1割程度しか認められない。裁判に1、2年近くかかることもあり、その間のコストを考えれば経済的合理性を欠くようなことになってしまう。

刑法に定める名誉毀損罪で告訴を試みても、警察や検察での立件が難しい面がある。さらに(1)内容に公共性がある、(2)目的に公共性がある、(3)内容が真実と証明できる――の3点を満たせば罪に問えない。特に(3)の真実についての論点が重要になるのだが、ネット上の言論の真実性については事案に応じて裁判所の個別判断になるのが現実だ。

もう1つ、注意してほしいのは、IPアドレスなどのアクセスログ(利用履歴)の保存期間が法律で定められていないこと。そのため、大手プロバイダでも3カ月~半年ぐらいしか保存しないことが多い。しかも最近の傾向として、どんどん短くなってきている。削除だけでなく、発信者を探り出すには、早めに動き出すことが何よりも大切である。

(構成=岡村繁雄)
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