2010~:自分軸が中心のビジネスマナーへ

現在の職場は、日本経済の高度成長期まっただ中に生まれた50代、苦労知らずのバブル入社組の40代、就職氷河期という難関をくぐり抜けてきた30代、そしてゆとり世代の20代が共存する。マナーという名の下、40年前には誰もが暗黙のうちに了解していた「こうあるべき」という社会人像は、著しい世代間ギャップにより、ひとくくりにできなくなったと高城さん。

セレブレイン代表取締役社長 経営・人事戦略コンサルタント 高城幸司氏

「ここ4、5年で新入社員の思考力が大幅に変化しています。40年前には当たり前だった『1を聞いて10を知れ』という教育では、今の若い社員には通用しません」(高城さん)

09年以降の入社組を、「ゆとり」とひとくくりにするのも問題かもしれないが、彼らの思考は明らかにそれまでとは違っているようだ。そのため、彼らを雇う会社側がビジネスマナー教育に対する考え方を方向転換させているのだという。

「数十社の新人トレーニングに関わってきて感じるのは、判断力の平均値の低下です。例えば『机はキレイに』といっても彼らには通じません。『机の上にモノを置いてはいけない』でもダメ。置いてはいけないモノのリストを与えなければ、その意味を理解しないのです」(高城さん)

これまでのビジネスマナーは、物事を察する力とイコールだった。状況を察知して行動するための判断を下すことが求められていたのだ。しかし、答えが明確なマニュアル社会で育った若手には無理なことなのかもしれない。

「彼らは上下関係よりも、ヨコの関係を大切にする世代。少子化、核家族化が進み人間関係が希薄な中で育ってきています。親とのコミュニケーションでさえメールで、という世代なので、敬語よりも『ため口』会話が標準です」(高城さん)

ただし、それではビジネスが円滑に進まないのは彼らもわかっている。そこで、『できる大人のモノの言い方大全』のような、日本語の使い方“マニュアル本”が注目されるのである。

「核家族化、少子化の影響で他人とのコミュニケーションは苦手。仕事でも周りは年上ばかり。その中で“大人”として扱われるためには、それなりの言い回しやマナーを覚えなければなりません。近頃は雑談ができない人も少なくないので、シチュエーション別の対処法がフォーマット化された『型本』が売れるのです」(土井さん)

11年の震災以降、新たな日本回帰の傾向が強まり、小さなコミュニティーでの雑談を重要視する向きが強まっている。

「今の時代はよりプライベート化しています。マナーもすべて自分軸で考えるのが主流。ネット社会の影響で他人の反応は以前よりも気になるため、『自分がどう見られるか』を自分軸で考えるのです」(土井さん)