「あの頃はよかった」が口グセのバブル上司、「だよね~」と答える平成部下……。相容れない理由を、マナー書の歴史とともに辿っていく。

2000~:「勝ち組」「負け組」危機意識が顕著に

バブル崩壊以降、景気低迷が続き、会社再編時代に突入した00年代。日本企業が柱としていた終身雇用制度崩壊に伴い、年功序列制度も過去の産物と化した。

エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役 土井英司氏

「会社への危機意識が強まり、勝ち組の象徴である外資や金融出身コンサルタントの著書に注目が集まりました。リストラや転職は当たり前。誰もが自分のことで精一杯。かつてのように会社の中でビジネスマナーを学ぶ機会は失われました」(土井さん)

以前は会社が教えてくれたビジネスマンのノウハウは、自分自身で学ばなければならなくなった。かつてと異なるのは組織のローカルルールを学ぶのではなく、「成功している個人」のスキルを学ぶ時代になったこと。そこには、“会社の中での成功”から“社会におけるグローバルな成功”を目指す視点の変化が見えてくる。

「企業の吸収合併が盛んになり、そこで働く人間も離散集合して組織は常に変化し、将来の保証も不確実に。そのため、会社ではなく社会で『成功するコツ』を学ぶ必要が生じました」(高城さん)

雇用形態も多様化し、年功序列の上下関係は崩壊。組織がフラット化する中で、何をもってマナーと捉えるかが問題となってくる。

「00年代後半からは、若手社員の将来への不安が増大。年功序列のルールに守られた高給の40代後半の社員が、入社間もない薄給の若手と大して変わらない仕事をしている状況で、彼らの古くさい価値観や成功体験を押しつけられても、若手は尊敬できません。従って、誰にも通用していた『年上を立てる』などのマナーは意味を成さなくなった」(高城さん)

20代、30代の若手社員にとって、過去の栄光や武勇伝はまったく興味がない。彼らは過去よりも“現在成功している、稼いでいる”を基準に判断するのである。

「会社への不信、国への不信が根底にあるため、ビジネスマナー書も00年以降は“自分”を中心にマナーを捉える方向にシフト。何億も稼ぐ人、転職して成功した人が憧れ。もはや会社でのローカルな成功は目標ではありません」(土井さん)

ビジネスマナー書にも、世界対日本のグローバル目線で勝負できる内容が求められたのだ。

●忘れがちなビジネスルールを再認識できる
『あたりまえだけど なかなかできない 仕事のルール』
浜口直太著/明日香出版社
敏腕コンサルタントによる、社会や組織での仕事のルール101の解説。著者本人の経験を基に、国際スタンダードとしてのビジネスマナーと常識をまとめた一冊。かつては当たり前のマナーを再認識できるロングセラー本。

●全編シーン別イラスト解説の軽く学べる一冊
『お仕事のマナーとコツ』
西出博子監修/伊藤美樹・絵/学研
愉しく仕事をするには、マナーが大切。自己表現が苦手な現代人が、人間関係でトラブルを起こさないためのマナーと知恵が満載。「暮らしの絵本」とあるように、ちょっとした仕事のルールも全編イラスト解説の軽さがいい。