小選挙区制は、デメリットが大きい

10年に尖閣列島付近で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件も、日中関係が継承されていない民主党政権だから起きたともいえる。

「日本の実質支配を認めた上で帰属そのものを棚上げする」ということで決着していたはずなのに、当時の前原誠司外務大臣あたりが「尖閣は日本固有の領土であり、日本の法律に則って粛々とやる」などと発言するから、中国も頭に血が上って行動をエスカレートさせたのだ。

石原慎太郎前東京都知事が尖閣を購入し、避難港などをつくるという行動に出たときに国家の強権でそれを止めればよかったのに、野田佳彦前首相自ら「尖閣国有化」を敢行したものだから、中国は「棚上げ合意」を反故にした、といきり立った。

「日本の実効支配を認める代わりに棚上げ」という尖閣に関する日中間の暗黙の了解について自民党政権は国民に説明してこなかったし、民主党政権にも引き継がれなかった。それが民主党政権の外交失点という形で表面化し、日中関係を今日のように悪化させてしまったのだ。

話を戻そう。自民党政治の第3の特質はこのような特異な外交である。日中関係だけではなく、日韓、日米、日ソ(露)など近隣諸国との重要な外交関係を自民党政権はすべて文書にすることもなく、国民への説明もなしで構築してきた。これは外務省の怠慢であると同時に自民党実力者の独特の問題解決手法であった。

この3番目の特質が政権交代を非常に難しくしているのだ。民主党政権が躓いた最大の理由の1つはやはり外交だ。原発問題にしても、自民党政権は秘密裏にアメリカの許可を得てウラン濃縮やプルサーマル技術の開発を進めてきた。それを民主党は受け継いでいないから、原発事故後に「原発依存度は0%がいいですか、15%がいいですか、20~25%がいいですか」などと国民に選択肢を提示し、脱原発依存に舵を切った。野田前首相はオバマ大統領からミーティングを拒絶されるなど、冷たくあしらわれた理由が理解できなかっただろう。

最後にもう1つ、自民党政権の特質の4番目。自民党の綱領にも書いてあるように、「憲法改正」である。その急先鋒が安倍首相で、国民投票法案を通した安倍首相自身も憲法改正論者であることを隠していない。

さて、以上、自民党政権の4つの特質の中で、4番目の憲法改正を除いては、いずれも政権交代になじまない。それは戦後60年かけて日本の統治システムと同化し、ちょっとやそっとでは引きはがせないものになっている。民主党のような“駆け出しの新人”がこれを否定してみたところで、パンドラの箱が開くだけで、新しい路線に進むことなどできないのだ。

従って日本はもはや政権交代が不可能な国であり、仮に民主党や日本維新の会が復活して強くなっても、「政権交代はできない」ということを結論として持つべきだと私は思う。小選挙区制という選挙制度の下では、移り気な世論の動向次第で振り子のような政権交代は起きるだろう。しかし、民主党政権でわかった通り、新しい政権が生み出すのは「アラブの春」の後と同じ混乱以外の何ものでもない。

健全な政権交代が起こらないのならば、小選挙区制は政治体制を不安定化させるデメリットのほうが大きい。その存在意義もいま一度問われるべきだろう。

そして政権交代ができない政治状況で、我々国民に残された選択肢は何かといえば、自民党政権の特質を1つずつ吟味して、自民党(および中央省庁)に変革と体質改善を迫ることしかない。

自民党的中央集権体制では日本の長期低落が免れないのは明らかで、財政改革は待ったなし。もはや密約外交では国際社会の信は得られない。アメリカでさえも近隣と揉める安倍外交に危機感を持ち始めている。

逆に言えば本稿で述べた最初の3つの自民党的体質を変革できるかどうか、日本国民そのものの信が世界から問われている、と私は思っている。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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