私の心の隙間にすっと入り込んだ室蘭出身の“怪優”

昭和の二枚目風で妙な色気はあるけれど、万人受けする陽気なセクシーではない。仏像のような半眼、老獪さすら感じる口元、穏やかなロートーンボイスとアクの強いダミ声を使い分ける。人気番組「水曜どうでしょう」の牛乳早飲み対決で、豪快に本気で吐いていたあの人。もうおわかりですね。ヤスケンこと安田顕である。

映画『龍三と七人の子分たち』の完成披露試写会に出席し、舞台あいさつを行った安田顕さん(2015年4月14日、東京都千代田区のイイノホール)
写真=時事通信フォト
映画『龍三と七人の子分たち』の完成披露試写会に出席し、舞台あいさつを行った安田顕さん(2015年4月14日、東京都千代田区のイイノホール)

名演技で主役を食うこともしばしば、脇を固めるだけでなく、主演作もここ数年で倍増。印象としては、気づいたらそこにいた。「この役者は己をかなぐり捨てることができる」といつの間にか信頼を置く自分がいた。でもいつからだったのか。

ドラマの視聴ノートを見返してみると、初登場はNHKの特集ドラマ「風をあつめて」(2010年)だった。障害のある子をもつ父親を演じていたのだが、泣く姿が印象に強く残ったようだ。『週刊新潮』の連載原稿で触れたのは、杉本哲太と古田新太のW主演作「隠蔽捜査」(TBS・2014年)だ。

もうこの時点でヤスケンが演じるやさぐれ刑事に期待を寄せている。どうやらこの間にすっかり虜になった模様。心の隙間にすっと入り込んだ怪優・安田顕の軌跡を個人的趣味で振り返ってみる。

「ホントに僕、なにも考えてないんです」

朝ドラに大河、日曜劇場と、役者なら一度は出たい大きな枠のドラマに出演し、名実ともに人気俳優となったわけだが、光を当てるとスッと避ける、そんな印象もある。華やかな芸能界のど真ん中にいるはずなのに、虚ろな目をして膝を抱えて座っているような、不思議な存在感。

ヤスケンという怪優を見出した鈴井貴之(現・クリエイティブオフィスキュー会長)は最も冷静に見ていたようだ。北海道ウォーカー特別編集『ヤスケンと呼ばれて』のインタビューでこう述べている。

「常に稽古場の隅っこにいるっていうイメージなんですよね。体育座りして爪かんでるの。おれが話してるのに、隅っこで遠くを見てるから、『言いたいことがあるなら言え』って何回も怒ったことありますよ。なにか反抗的な態度に映ったんですよね。そしたら、『あぁ……ホントに僕、なにも考えてないんです』って(笑)」

また、あまり前に出て行くタイプではないヤスケンが、TEAM NACS(大泉洋・森崎博之・音尾琢真・戸次重幸)の中で見つけたポジションが「陰・鬱・暗」だった、とも話している。ぼんやりしているように見えても、ちゃんと周囲を見て、調和を重んじる人だということが暗に伝わってくるではないか。

トーク番組に出ても前に出ず、あまり自分語りをしない。「陽気で快活」とは程遠いエピソードが周囲から漏れてくるのだが、ヤスケンはどんな幼少期を送り、なぜ人前で裸になることも厭わない職業を選んだのだろうか。