適応せよと就職対策本は語る

先週示した今回の課題には、早くも明確な答えが出てしまいました。世の中では就職活動についてさまざまに議論がなされている一方で、就職対策本という一種の自己啓発書においては、就職市場への適応を促す以外の物言いのパターンはほぼみられないということです。

ここまでの連載と合わせて考えるならば、就職対策本および自己啓発書は、個人レベルでの現状適応を促すメディアなのだと結論づけられそうです。仕事が楽しくない、それはあなたの「心」の問題だ(第5テーマ・仕事論)。結婚したい、それならあなた自身が「女らしさ」を磨かないとね(第7テーマ・女性論)。就職したい、なら頑張ろうね(今回)、というようにです。労働環境の問題や、男性・女性がそれぞれ置かれている社会状況への言及はほぼなされることはありません。おそらくそれは、「個人が何をすべきか」を論じる自己啓発書にとっては「ノイズ」でしかないのでしょう。

ただ、近年の就職活動本においては、この「個人が何をなすべきか」という文脈に落とし込めるある一つの論点だけが、近年の就職活動論からとりこまれています。それは以下のような言及に現われています。

「就職状況が“超氷河期”といわれるようになった背景には、学生たち自身の責任もあります。(中略)学生にとって、人気の基準は『大きい会社であるかどうか』『自分が知っているかどうか』だけなのか、と愕然とします」(赤羽良剛『恋する★シュウカツ』21p)

「中小企業だけでなく大企業も玉石混淆であり、『すべての大企業は○』という理解は間違っているということ。(中略)外見に振り回されることなく、本質を見抜く力をもちましょう」(戸田智弘『就活の手帳』53p)

「就職難といわれながらも、世界的に見れば、日本はまだまだ就職しやすい国です。それでも多くの学生が上場企業や一流企業に入社できる状況ではありません。有望な中堅企業や中小企業まで含めて、応募の範囲を広げることが必要です」(阪井輝昭ら『就活』16p)

前回紹介した児美川孝一郎の編による『これが論点!就職問題』のなかには、コンサルティング会社代表取締役の海老原嗣生(つぐお)さんによる「〈超・就職氷河期のウソ〉四大卒も中小企業を目指せばいい」という論考が収録されていました。海老原さんは、就職難の主因は大学生が求人数以上に増えすぎたことにあると述べたうえで、大卒者に対する求人倍率が低いにもかかわらず皆が殺到する大企業ではなく、求人倍率がより高い中小企業のなかから優良な企業を探してはどうかと提言しています。今回の対象書籍20点中5点で、海老原さんの主張とほぼ同様の主張をみることができました。繰り返しになりますが、近年の就職活動論のうち、「個人が何をなすべきか」という文脈に落とし込めるもののみが、就職対策本にとりこまれているようです。