TOPIC-4 2010年代に表れた「見た目」と「親」

以前も書いたように、拙著『自己啓発の時代』では2010年までの就職対策本の分析を行ったのですが、今回集めた資料(2012年夏から2013年春に刊行されたもの)には、以前の対策書にはみられない内容がいくつかありました。

一つめは「見た目」に関する言及です。前回、服装への主張の相違についてとりあげましたが、服装への言及自体はさほど珍しいことではありません。今回の対象書籍で目を引いたのは、特に女子学生に向けられた就職対策本において、相当数のページが、服装に限らない「見た目」の問題に割かれているということでした。

以下では、野村絵里奈さんと会田幸恵さんによる『女子力就活!』、碇ともみさんによる『「受かる」就活女子レッスン』を素材としていきます。両書ともに、自己分析を行い、やりたいことを見つけ、エントリーシートと面接にはこう臨もうという就職対策本の構成要素を一通り含んでいますが、それに加えて「見た目」についてかなり多くの紙幅が割かれています。まず、野村さんらの以下のような言及を手掛かりにして考え始めたいと思います。

「企業が新入社員に求めるものは、素直さ、明るさ、フレッシュさ。すべて20代前半の女の子ならもっていて当然のもの。決して容姿の美しさではないんです。ここでいう〈外見力〉とは、面接官などの大人相手にきちんとした印象を与えつつ、あなたらしさもキラリと光ること。お手本となるのが、女子アナウンサーです。(中略。以下、女子アナウンサーが求められるのは)どんな層にも受け入れられるファッション、メイク。具体的なイメージとして、よく言われるのが〈清楚で知的なお嬢さん〉です」(126p)

その後には「就活メイクのポイントは〈清楚〉〈知的〉〈健康的〉」(127p)という言及もあります。こうした「社会の中で評価される美」を磨き、「あなたらしい〈外見力〉を育てていきましょう」(127p)というのが野村さんらのスタンスです。

私が興味深いと思うのは、連載第7テーマで扱った女性向け自己啓発書と同様に、美は生まれ持ってのものではなく磨かれるものと考えられていること、そして「あなたらしさ=自分らしさ」の問題として考えられていることです。野村さんらの著作では、冒頭で以下のような言及もみられました。

「私たちが目指すのは、素直に自分のありのままを見せられる、健やかな〈女子力〉です。自己分析法や面接対策、メイクにダイエットなど、ありとあらゆる厳しい指導を経てたどり着く、自分らしさの境地。不思議なことですが、自分らしさをわかっている女の子はとても少ない。自分らしくない面接をいくら重ねても、内定をつかみとれるわけがありません」(7p)

メイクやダイエットなど、まさに「ありとあらゆる」手法を用いて目指される「自分らしさ」、ありのままの自分。これは、今までの連載で幾度か登場した、女性向け自己啓発書の目標とほぼ同じだといえます。