愛してやまないペットにもいつか最期の日は訪れる。その瞬間にどう向き合うべきか。本業は介護福祉士のエッセイスト・フクダウニーさんは「常にその時が来ることに身構えていなければ、そしてその別れがどんな状況どんな状態で訪れるのか想定していなければ、きっと耐えられない」という――。

※本稿は、フクダウニー『心の中で犬を抱きあげたあの日、自分に優しくなれた気がした』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

犬
写真=iStock.com/miodrag ignjatovic
※写真はイメージです

梨が大好物…人間で言えば90歳くらいの超シニアドッグ

実家で暮らす犬の好物はたくさんあるが、その中でも一等好きなのが梨だ。

林檎ではなく、梨だ。

林檎であれば一年を通してスーパーなどで購入出来るものの、季節の果物の梨となればそうもいかない。それに、林檎と比べれば梨は高価な果物でもある。そんな人間の懐事情もあって、可能であれば、ほんと出来る範囲内で構わないからこちらも好物としていただいて……と代用品としてカットした林檎の提供を試みたこともあったのだが、ふんっと嘲笑あざわらうように鼻息をかけられて終わった。

普段はベロを出して呑気な面構えの穏やかな犬として暮らしているものの、好物に対しては一切の妥協を許さぬ生粋の食いしん坊であった。

赤ちゃんから大人へ、大人から老犬へと順調に成長していった実家の犬は、現在人間で言えば90歳くらいの超シニアドッグとなった。のんびりおっとりした赤ちゃんがそのまま老犬になったのがうちの犬である。

ずっと元気でいてくれると思っていたのに

変化と言えば加齢による歯槽膿漏しそうのうろうで抜歯した結果、ベロを押さえていた歯も抜かれたようで常にベロが出る仕様になったことくらいだろうか。

たまに格納されていることもあるが、くしゃみしたりぶるぶるっと首を振るとベロが全部出て来るので、基本アウトドア派のベロのようだ。

いつぞや「そこをキャンプ地とするんですか?」と聞いてみたが、「は?」と言わんばかりの顔をしていた。そりゃあそうだよ。

数年前までは老いるは老いたけど元気だし、大きな病気もしてないし、何より食欲旺盛なのでまだまだ生きるだろうと思っていた。私の生活に、人生に、まるで横付けするように犬が尻なり鼻なりくっつけていてくれるんだと思っていた。

でも、最近の犬の様子を見ていると、もしかしたらそんなことないんじゃないかと思えて来て、心に穴が開きそうになる。考えたくも認めたくもないのに、気が付けば犬のことばかり考える。これが恋というものなのかしら。まぁ、恋も犬も同じ二文字だし。

最近の犬は体調が悪い。食欲も安定せず、咳が出るようになった。病院に通い、検査をして、注射や投薬での治療を続けているがそもそも何故咳が出るのかその原因が分からない。仮に分かったとしても高齢で治療の手段が少ないのだそうだ。先生には本当に良くしてもらった。感謝しかない。