5月21日、江藤農林水産大臣は「コメは買ったことがない」などと発言した責任を取り、辞表を提出した。歴史評論家の香原斗志さんは「江戸時代に起きた米騒動のときと状況が似ている。約240年前も現在も、コメの安定供給を怠った『お上』に対して一般市民の抱く感情は同じだ」という――。
石破首相に辞表を提出後、記者団の取材に応じる江藤農相=2025年5月21日午前、首相官邸
写真提供=共同通信社
石破首相に辞表を提出後、記者団の取材に応じる江藤農相=2025年5月21日午前、首相官邸

「私はコメを買ったことがない」発言のマズさ

米価が下がらない。たとえば、5月5日から11日までの1週間に販売されたコメの平均価格は、消費税込みで5キロあたり4268円だった。この価格は1年前とくらべて102.5%も高い。

ほかの食品でもきついが、ことコメは日本人の主食である。それが2倍以上に値上がりして下がらないとなると、生活への影響はかなり大きい。なかなか上向かない消費者心理にも波及して、景気がさらに冷え込むのではないかという心配も募る。

そんなときに飛び出したのが、江藤拓農林水産大臣(当時)の問題発言だった。5月18日に佐賀市内で講演し、「私はコメを買ったことがない。支援者の方々がたくさんコメをくださるので、まさに売るほどある。私の家の食品庫には」と発言したのは周知のとおりである。

翌日、発言の意図を問われ、「消費者に玄米でも手にとってほしいと強調したかった」と説明したが、なにをいいたいのかまるでわからない。

結局、更迭されたが、ひとついえるのは、江戸時代であれば、とりわけ現在放送中のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢~」の時代であれば、江藤前大臣は打ちこわしに遭っていたかもしれない、ということである。

コメの値段高騰の最大の原因

「令和の米騒動」においても、これほど米価が高騰し、下がる気配がない最大の原因は、コメを集荷したJA全農が農水省と一体になって米価を操作するために、流通量を調整したから、つまり、市場に供給する量を抑えたからだろう。なにしろ、備蓄米にしてもいまだに9割以上が市場に出ていないのだ。

投機が目的の買い占めおよび売り渋りや、いわゆる「転売ヤー」が介在しているからだ、という指摘もある。だが、そもそもJA全農自身も、消費者から見ればコメを貯めこみ、買い占めや売り渋りをしていると解釈されても、仕方ない状況だといえるだろう。

しかし、コメの価格を操作しようなどと目論めば、蔦重こと蔦屋重三郎が生きた時代には「打ちこわし」、すなわち家屋を破壊して品物を奪ったりする民衆の暴動の対象になることが多かった。

したがって、「売るほどある」とまで大口をたたいた江藤前大臣も、打ちこわしの対象になってもおかしくない。そもそも民衆心理をおおいに逆なでした時点で、打ちこわしを免れなかった気もする。

それでは蔦重の時代には、米価はどのように上昇または下落を繰り返し、その影響でなにが起きたのか、江戸を中心に見ていきたいと思う。