【田原】もともとインキュベーションをやりたいと考えていたんですよね。いまベンチャーに投資しようという気はないの?

【岩瀬】会社としてお客様のお金をそこに使うという考えはないです。ただ、ベンチャーの育成は日本のために必要なので、若い起業家にいろいろ教えてあげたり、個人的にちょっとだけお小遣いを出したりはしています。それはずっと応援していきたいです。

【田原】ところで、岩瀬さんは本を書いたりして、社外の活動も活発です。文章を書くことが好きなんですか。

【岩瀬】文章だけでなく、文化活動とか芸術全般が好きです。海外のビジネスマンは、成功したらアートやチャリティーに社会貢献をする人が多く、かつては日本にもそういう経営者がたくさんいましたが、僕らの世代はほとんどいない。だから仲間を文楽に誘ったり、一緒にアートを買いにいったりして、アートにもっと興味を持とうよという運動を密かにやっています。

【田原】たとえばアサヒビールの樋口廣太郎はオペラにものすごいお金を使った。電通の成田豊も、劇団四季を支えていましたね。たしかに最近は文化芸術を支える経営者がいなくなった。

【岩瀬】僕らの世代の起業家が世間からリスペクトされない原因も、そういうところにあるんじゃないかと思っています。起業家は会社の利益を追求するだけじゃなく、社会と共生したり貢献する姿勢を示さないとリスペクトされません。そこに気づいた人は、僕らの世代でもTシャツじゃなくてスーツを着ていますし、文化・芸術の保護にも積極的です。楽天社長の三木谷浩史さんは最近、東京フィルハーモニーの理事長になられた。そこは先をいかれています。

【田原】それはおもしろい。岩瀬さんも負けないように頑張ってください。