なぜ痴漢より「使い込み」「競業」が厳罰なのか

「サラリーマンが何か不祥事を起こしたときに受ける処分を懲戒処分といいます。最悪の場合には『クビになる』こともあり、これは普通の解雇と区別して懲戒解雇と呼ばれます。ここでは懲戒処分、とりわけ懲戒解雇がどういうときに認められるのかを見ていきましょう」

神戸大学大学院教授(労働法)の大内伸哉氏が説明する。

企業秩序を侵害したことに対する制裁措置。これが懲戒処分の意味である。

懲戒事由と懲戒処分については、企業があらかじめ就業規則に記載しておかなければならない。懲戒処分の種類は会社によって異なるが、通常は、軽い順に「譴責」「戒告」「出勤停止」「減給」「降格」「論旨退職」「懲戒解雇」となる。

なかでも懲戒解雇は、退職金がゼロになるとか再就職が困難になる「サラリーマンにとっての極刑」(大内教授)なので、重大な企業秩序の侵害があってはじめて許されるというのが一般的な解釈だ。

サラリーマンの不祥事は、業務に直接関係するものと私的領域に属するものとの2種類に分けることができる。前者でいえば横領や業務に関する不正な金品の受領などが典型的だ。ツイッターで顧客情報をばらしてしまったということも含まれるだろう。後者は痴漢や万引、飲酒運転、不倫などが考えられる。

私的領域の不祥事には、プライベートな時間帯での犯罪行為も含まれる。そうした犯罪で逮捕されれば、文句なく懲戒解雇になるのだろうか?

「刑事罰に相当する行為があった場合、処罰を下すのは司法の役割。また犯罪にも重大な犯罪、軽微な犯罪があります。会社は社員のその行為が企業秩序を侵害している場合に、その限りで制裁を科すことができるにとどまります」(大内教授)

むろん殺人や放火といった重大犯罪ならば、1度事件を起こしただけで懲戒解雇もやむをえない。だが、痴漢や飲酒運転の場合は、軽微とはいえないものの、程度や常習性の有無によって会社の扱いも異なりうる。

「痴漢行為で捕まっても被害者と示談が成立すれば、不問に付されることもあるでしょう。しかし会社に知られたとか、有名企業の社員だったために逮捕の事実が報道されたとなると、『会社の社会的評価に重大な悪影響を与えた』と見なされ、職務には関係ない行為であっても懲戒処分の対象になりえます」(大内教授)

ただし、そのことがすぐ解雇につながるのかというと、そうではない。住居侵入による有罪判決が懲戒解雇の事由になるかを争った判例では、私生活の範囲内の事件であり、罰金額が小さく、会社での当人の職位が低いことから解雇は無効とされている(横浜ゴム事件)。