なぜ日本企業ではイノベーションが生まれにくいのか。物流ジャーナリストの坂田良平さんは「費用対効果を絶対視して、やる気に満ちた従業員を打ちのめし、改善活動やイノベーションへの取り組みを頓挫させる『費用対効果おじさん』がいるからだ」という――。
上司に非難されて落ち込んでいる若い社員
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日本の生産性はスロバキアとラトビアの間

過去30年、平均GDP成長率が1%未満に留まり、主要先進国中最下位レベルの生産性に甘んじる日本経済。

日本生産性本部が発表した2023年の日本の労働生産性はOECD加盟の38カ国中32位、位置にしてスロバキアとラトビアの間だった。

【図表1】OECD加盟国の労働生産性(1人当たり)2023年
日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中32位(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2024」を基に編集部作成)

この長きにわたる停滞を脱するには、これまでの常識を覆す、大胆な発想に基づいた改善活動やイノベーションが必要だ。

しかし現実には、意欲のある人たちが改善活動やイノベーションを社内提案したとしても、否定され、実行できないことも多い。

今回は、要因の1つである、「費用対効果おじさん」について考える。

社長は「費用対効果は考慮しなくて良い」

以前、筆者はある中堅倉庫会社の2代目社長から相談を受けたことがあった。

・改善活動を行いたい
・会社上層部からのトップダウンではなく、現場からのボトムアップで改善活動が行われるように従業員の考え方を前向きにさせたい
・中堅社員らが、改善活動を楽しいと感じつつ、実際に改善活動を推進できるだけのスキルも身につけてもらいたい

社長は、最後に挙げた要素を特に重要視していた。

そういったこともあり費用対効果の算出については、「一切考慮しなくて良い」と断言した。本プロジェクトは、倉庫作業員や事務職員などをメンバーに登用予定であり、現時点での彼ら彼女らに、費用対効果を算出するほどのスキルがなかったためだ。