声やしゃべりに自信があったわけではない。しかし、プロのナレーターを雇う金はない。選択肢はなかった。休日や平日の夜に全60講座のうち10講座を必死で録音し、「科目1」としてネットで発売。買ってくれる人がいるのかと半信半疑だったが、2週間後にポツリポツリと申し込みが入った。
「思わずパソコン画面の前で手を合わせてしまいましたよ。頭の中ではチャリンチャリンと売上金の音がしました(笑)。もちろん、『こういう講座がほしかった』『安すぎるんじゃないか』というお客さんの声も嬉しい。自分がやっていることが認められた、と感じましたね」
喜びに浸っている暇はなく、寝る間も惜しんで残りの講座を録音。二足のわらじの期間は、寝不足が続いた。会社の給料と同額ぐらいは稼げる目処が立ったために、翌09年4月に退職。妊婦だった妻も賛成してくれたという。
「休日も勤務時間も自由ですし、事務所は自宅から徒歩圏内。毎晩、子どもをお風呂に入れてますし、平日のディズニーランドに連れていってあげられますよ」
会社を1人で背負い続ける緊張と不安は常にある。一方では、来年は収入を倍増できるかもしれない。サラリーマンには実現不可能な夢だ。
「今後、メジャーな国家資格はすべて手がけていく予定です。日本一学びやすいインターネット通信講座をつくりますよ」
他人がつくったルールに合わせるのが昔から苦手だったという綾部。自力本願な働き方が性に合っている。
(馬場敬子=撮影)