身請けされるのが女郎の幸せ」というのは本当か?

さて、ここからは女郎を卒業したあとのお話をしましょう。

『身請け』

「身請け」とは、身代金を払って女郎を請け出すことです。この場合、女郎は年季奉公なので、本来は親の承諾もいりますが、多くの場合、子を売った親に、今後すべての縁を切るとの証文を入れさせているので、横やりを入れてくることはありません。あとは女郎本人の選択です。

「女郎の一番の幸せは身請けされることである」とよく言われますが。これは単に、生活面のことを言っているだけで、必ずしも好きな相手と夫婦になれるわけではありません。

女郎屋としては、少しでも高く身代金を払ってくれる客がいいのですが、一応女郎の拒否権は認められていました。とはいえ、ほとんどの女郎が売られてきたときの借金や吉原で暮らすうちに貯まった借金が積もり積もっているので、やはり高い身代金は魅力です。

とはいえ、嫁にもらわれたが「女郎上り」ということから、お姑や小姑などからいじめられて追い出されたケースもあるので、必ずしも金持ちがよいとは限りません。

十返舎一九作、喜多川歌麿画『青楼絵抄年中行事』1804年(享和4)
十返舎一九作、喜多川歌麿画『青楼絵抄年中行事』1804年(享和4)、国立国会図書館デジタルコレクション (参照:2025年4月8日)

27歳の年季明けで自由になれる女郎は少なかった

『年季明け』

禿として育てられた期間を除いて、17歳くらいから女郎として働けば、27歳くらいで、年季が明けます。そのため、女郎の定年も27歳くらいを基準にしていました。

山田順子『吉原噺 蔦屋重三郎が生きた世界』(徳間書店)
山田順子『吉原噺 蔦屋重三郎が生きた世界』(徳間書店)

それより年長はそれぞれの道を歩みます。もちろん自由の身になったというので、好きな人の女房になる幸せな話もありますが、在籍中に借金がかさんでいると、そのまま年季明けとはならず、延長されます。

その場合、番頭新造として女郎屋に残れるのは一人ですから、それ以外は身売りをして、「切見世」とも呼ばれる「河岸見世」や「局見世」に売られます。中には、女郎屋に在籍せずに一人で営業している「隠し女郎」をしている人もいました。

吉原以外の岡場所や地方の遊郭に売られることもあり、なかなか女郎稼業から抜け出せません。

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