「食中毒の危険ならレストランも高いとも思えるが、レストランで文書に氏名を書かされることはまずない。今では当初の目的と違ったところ、たとえば警察の犯罪捜査で、容疑者の動きを把握するために使うことが多い」(同)
犯罪者なら、そもそも本当の名前を告げるはずがないようにも思える。しかし、「偽名で宿泊先を転々とする犯罪者の場合、同じような偽名を使うことが多いため、捜査の手がかりとなることがある」(同)
さらに、国際テロを未然に防ぐ目的で、2005年に旅館業法の施行規則が改正され、日本国内に住所を有しない外国人宿泊者に対しては、国籍を確認し、パスポートの旅券番号も申告させるようになった。宿泊客にパスポートを呈示させてコピーを残し、もし呈示を拒み続ける場合は警察署に連絡するよう、各宿泊施設に求めている。しかし、「現実には、パスポート提示、コピーまで徹底しているホテルは少ないのではないか」(同)
ところで、いわゆる「ラブホテル」では、そもそも宿泊者名簿への記入が求められないのはなぜだろうか。
「違法を承知なのだろう。ラブホテルの利用は非常に私的な行為で、名簿を置いてもほとんど偽名しか書かれないだろうし、食堂がないラブホテルでは、少なくとも食中毒の危険性が低いわけで、そのため名簿を置く合理性も乏しい」(同)
法律の内容は明快だが、運用はきわめて曖昧。宿泊者名簿は、そんな不思議な存在である。
(ライヴ・アート= 図版作成)