問題は、内需株が日本の株式相場全体をけん引することができるのか、である。高い生産波及効果を有する自動車産業とは対照的に、銀行や不動産、小売の生産波及効果は弱く、建設が全業種平均をわずかに上回る程度である。自動車や電機などの輸出関連銘柄が主導する相場上昇局面に比べ、上昇銘柄のすそ野の広がりにやや欠ける相場展開となるかもしれない。
しかし、他業種への波及効果は弱くとも、インフレ下でこそ利益が上振れしやすい業種や銘柄が、株式相場の上昇を主導する展開は起こりうる。
日本株の上振れ余地は十分にある
売上高が恒常的に伸びなかったデフレ下の日本では、人件費や利払い費などの固定費を削減して、売上高の変動に利益が左右されにくい収益構造をもつ企業が、株式市場で評価されてきた。翻って現在は、深刻な人手不足や金利の正常化が続く中、いずれの企業も固定費の増加は避け難い。企業のコスト構造の中で固定費の割合が相対的に高まれば、売上高の変化に対する利益の感応度は高まり、インフレ下を前提とした収益環境では必然的に高い利益率をもたらしうる。
「売上高の変化に対する利益の感応度」は、一般に経営レバレッジと呼ばれ、経常利益(あるいは営業利益)に対する限界利益の比率として導出される。雇用や設備といった、固定費の発生を伴う経営資源を梃子にして高い利益率を実現しうる業種や銘柄は、インフレ下の株式市場で高く評価されることになろう。
財務省「法人企業統計」をもとに、業種の経営レバレッジを算出したところ、製造業では金属製品や石油・石炭、非製造業では電気業、運輸・郵便業、物品賃貸業、建設業が、相対的に高い経営レバレッジを有している(2024年暦年、大企業ベース)(図表4)。これらの業種は売上高の増加局面で利益率が改善しやすい半面、売上高が伸びない局面では赤字に転落するリスクも相対的に高い。高い経営レバレッジはハイリスク・ハイリターンな収益構造といえる。
予見可能性の低いトランプ政権に振り回される株式市場において、リスクの高い銘柄は敬遠されがちである。しかしトランプ政権が日本に及ぼすプラスの側面と、日本のインフレ定着が企業収益に及ぼす影響を踏まえると、今後の日本企業の業績および日本株には上振れ余地が十分にあるように思われる。