「トランプで日本株は売り」とは限らない
逆に、今後予想されるトランプ政権の政策を先取りして、積極的に買われている銘柄もありそうだ。例えば、年初来騰落率が2番目に高い「エネルギー資源」である。
トランプ大統領は、バイデン前政権が推進してきた脱炭素路線を転換し、米国内での石油・天然ガスの生産や開発を促進する方針を打ち出している。日本政府もトランプ政権の方針転換に足並みを揃える形で、米国産の液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすことで日米首脳が合意した。
さらにトランプ政権は、米北部アラスカのLNG開発事業に対する日本からの投資を要求している。日本企業が同事業にどの程度関与するのかについて現時点では明らかになっていないが、原油・天然ガス市況が軟調な中での資源関連株の上昇は、トランプ政権の政策転換を追い風とした将来のエネルギー需要の拡大を織り込んだ面もあるとみられる。
また、原油・天然ガス供給の増加に伴うエネルギー価格高の是正は、日本経済の回復の追い風になりうる。日本では雇用・所得環境の改善にもかかわらず、エネルギー価格の高騰による消費者心理の悪化が家計の購買意欲を冷え込ませてきた。今後、原油・天然ガス価格が下落すれば、株価の年初来パフォーマンスが冴えなかった小売や食品、サービスなどの消費関連銘柄にも、業績回復期待から買いが広がる可能性がある。
インフレと収益拡大の好循環をもたらす可能性
なお、年初来の株価パフォーマンスが際立っている銀行セクターは、デフレからインフレへの転換に伴う「金利の正常化」が、銀行の貸出し利ザヤの改善を通じて収益を押し上げる、として投資家の人気を集めてきた。
政策金利の引き上げ局面では、貸出金利よりも預金金利の引き上げペースが遅れる傾向があり、貸出金利と預金金利の差である利ザヤの拡大が続く。政策金利はインフレ率の基調的な上昇にあわせて引き上げられるため、銀行株はインフレに強い銘柄の代表格と位置付けられる。
そのほか、販売単価がインフレ加速時に上昇しやすい不動産や建設の株式もインフレに強いとされるが、資金調達コストが概ね政策金利で決まる銀行とは異なり、不動産会社や建設会社の調達コストは原材料やエネルギーの価格に大きく左右される。
今後、エネルギー価格が安定するなかでインフレが進行すれば、収益性は改善し、インフレに強い不動産株と建設株の魅力が一段と増すだろう。トランプ政権の石油・天然ガス増産計画は、インフレと収益拡大の好循環をもたらす可能性を秘めている。
「内需株」が株式相場をけん引できるか
トランプ政権の政策は、これまでも唐突に発動・撤回されてきた。予見可能性の低さは、株式投資のリスクを高める要因であることは間違いない。
ただ総じて言える事は、日本株はトランプ政権の政策動向に大きく左右されており、関税引き上げ懸念が輸出関連銘柄の下落材料となる一方で、石油・天然ガスの増産方針に伴うエネルギー価格の安定化は日本株全般の押し上げ要因となる、ということである。
なかでもインフレに強い銘柄群は、トランプ政策によるプラスの恩恵を受けやすい。銀行や不動産、建設に小売などを加えると、総じて内需株と表現することができる。今後は内需株が日本の株式市場で注目を集めることになるだろう。