VW、ルノーは中国事業の強化を発表
現在、欧州の企業は、景気が相応に底堅く推移してきた米国市場で事業を強化したいだろう。しかし、トランプ政権の政策がどうなるか、その予想は難しい。先行きが見通せない中で、企業が大きなリスクをとるのは困難だ。同じことは、米国やわが国など主要国の企業にも当てはまる。
フォルクスワーゲン、ルノーは相次いで中国事業の強化を発表し、ソフトウェアが性能を決める自動車(SDV)の開発期間短縮などに取り組む方針だ。それは、中国の自動車関連企業にとって、欧州市場でのシェア拡大を目指す追い風になりうる。
新興国の政策にも変化が表れた。米国では、イーロン・マスク氏がトップを務める政府効率化省(DOGE)が政府職員の大規模リストラを実施し、米国際開発庁(USAID)は事実上閉鎖された。
その一方、中国は新興国向けの金融支援を強化し始めたようだ。コロナ禍の発生以降、アフリカ諸国の財政状態は悪化した。ザンビアやエチオピアは国債の元利金を約束通り支払えない“デフォルト(債務不履行)”に陥った。
トランプ政策の最大の敗者は米国自身か
これまで米国の金融支援の実行が、当該国の経済の立て直しに重要だったのだが、トランプ政権は対外支援の縮小を重視している。米国の国際開発庁(USAID)の事実上の廃止はその象徴ともいえる。その隙を突くように、中国が一帯一路の沿線国に追加の金融やインフラ投資の支援を提案すれば、米国よりも中国との関係を重視する国は増えるはずだ。
中国のIT先端分野や人権、海洋進出、過剰生産能力の廉価輸出を食い止めるため、米国にとって環太平洋パートナーシップ協定(TPP)のような対中包囲網は必要だった。しかし、現在、多国間の政策連携を強化して、経済面から中国の対外進出を食い止めることは難しくなった。
その中でトランプ政権が関税引き上げや、欧州などに防衛費負担引き上げを求めれば求めるほど、世界は多極化に向かう可能性はある。そうした変化をとらえ、中国が新興国や欧州市場での地歩を固め、メリットを手に入れようとする動きは強まるだろう。トランプ政策で最もデメリットを受ける国の一つは米国かもしれない。そしてメリットの受ける国の一つは中国になりそうだ。