「5年で5倍」中国製自動車という新たな脅威
一方、中国では、米国以外の国や地域に進出する企業は増加傾向にある。特に、アジア、南米、アフリカやロシアなど新興国市場で中国企業の存在感は高まっている。
新興国と中国の通商取引は、米・中の関税合戦や先端分野での対立と直接的な関係はない。米国が関税引き上げに躍起になっている間、新興国市場などは世界のボリュームゾーンアクセスを中国に譲っているようだ。
象徴的な品目はEVだろう。2019年、中国の新車輸出台数は102万台だった。2024年は586万台にまで増加した。エンジン車を含め、アジアやロシア向けの自動車輸出は増加傾向にある。わが国の自動車メーカーが高いシェアを獲得した、ASEAN新興国地域ではBYDなど中国企業が進出し競争は激化した。
「中華EVがあふれている」欧州委員長の悲鳴
昨年、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、「域内市場に中国製のEVがあふれている」と懸念を表明し、中国で製造されるEV(欧州メーカーのモデルも含む)に関税をかけた。中国企業が欧州市場に深く浸透していることを象徴する措置だった。
BYDなど中国の自動車メーカーは、リン酸鉄系のリチウムイオンバッテリーの量産体制を確立し、バッテリー分野でも海外進出は加速している。バッテリーの関連部材や車載用ソフトウェアにも同じことが当てはまる。また、中国政府は国有自動車大手の経営統合を重視している。鉄道分野と同じように、中国の政府系企業が統合し米国以外の市場への中国製品の流入は加速するだろう。
トランプ政権が重視する鉄鋼・アルミに関して、中国が米国に直接輸出する数量はカナダを下回っている。また、中国企業はベトナムなどに拠点を設けて主要国や新興国向けの輸出を増やそうとしている。
スマホ、5G相当の通信基地、医療機器や医薬品、家電、汎用型の半導体といった分野でも中国企業は新興国向けの低価格帯の品揃えを増やした。ディープシークのR1をはじめとする中国AI関連分野の成長加速によって、ソフトウェア関連の新興国向け輸出も増えると予想される。