その間のエピソードが、11年5月31日に行われた新ロゴの発表会で披露された。あるとき、弁当を試食した佐藤氏の口から意外な言葉が飛び出した。
「ところで、この弁当はどこの仕出し屋がつくっているのですか」。セブン-イレブンではチームMD(マーチャンダイジング=商品政策)といって、ベンダーと呼ばれる弁当メーカーとチームを組んで共同で開発し、品質の改善改革を積み重ねてきた。ところが、コンビニに強い関心を持っていたという佐藤氏にも、価値が伝え切れていなかったのだ。
現場部隊を率い、佐藤氏と並んで発表会に臨んだ井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)が、「われわれにはコンテンツはあっても、それらをつないで結びつけるコンテクスト(文脈)がなかった」と語る言葉が印象的だった。
近くて便利なだけでなく、味や品質を徹底追求する。脈々たる理念を1つのブランドマークにいかに注ぎ込むか。実際、1年に及ぶブランディングプロジェクトは、佐藤氏によれば、「セブン-イレブンの確固たる信念をブランドマークで表すプロセスだった」という。その意味合いを鈴木氏はこう話す。
「個と全体という構図でいえば、これまではそれぞれの商品について、個としてしか考えなくて、“セブン-イレブンとしての弁当”という感覚がなかった。いや、みんな、自分ではあるつもりでいた。しかし、弁当にはロゴマークもついていないし、パッケージも全部違っていて、結局、バラバラでブランドのイメージが伝わっていなかった。
今回のプロジェクトで学んだのは、提供する価値を整理することと、それを的確なコミュニケーションで伝えることの大切さです。すると顧客の側も、個々の商品は違っても、ロゴやデザインが統一されていることで、背後にある関連性や文脈を感じることができます。商品の絞り込みはレコメンドする価値を強く意識づけるためですが、それは整理して伝えることで初めて意味を持つのだと学んだのです」
鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。