悩みやストレスを手放しやすくする生活習慣とは何か。『定年後の超・働き方改革 「楽しい仕事」が長寿に導く!』(光文社)を上梓した和田秀樹さんは「自分の気持ちや身の回りのものを『整理』することで、視界が明るくなり平常心を取り戻せることがある」という――。

不安を矯正してくれる認知療法

不安に駆られたり、心配になったり、悩みが深まったり……。こんなストレスを手放しやすくなる方法をご紹介します。自分の気持ちや身の回りのものを「整理」することで、視界がパッと明るくなり、平常心を取り戻せることがあるんです。

一つ目は「書くこと」です。

精神医学の分野では、「書くこと」を活用した心の健康法が注目されています。多くの人は、落ち込んだり不安を感じたりしたときに、心のなかに混乱した考えを抱えてしまうことで、さらに悩みが深まります。そこで「書く」という行為を用いて、心のなかを一度文章化し、不安や悩みを解消し、悪循環を断ち切ろうとする手法です。

このような健康法の代表例として、「認知療法」が挙げられます。

「認知療法」は、不安をより大きなものにしてしまう自動思考を矯正することを目的としています。たとえば上司から呼び出しを受けた際に、「リストラされるに違いない。もうどうしようもない」と極度の不安を抱いてしまう人がいますが、これは次のような思考パターンが根底にあるのではないでしょうか。

呼び出しの知らせを受けた瞬間、過去の上司との悪い関係の記憶が蘇り、心がネガティブな感情で満たされてしまう

そのネガティブな感情に影響され、「また同じような悪い結果が訪れるに違いない」という思考が生まれる

上司に会う前から、不安や怒りなどネガティブな感情が溜まり、思考回路は「悪いことが起こる」という方向に固定される

結果として、上司との会話が険悪なものになり、悪い結果を引き寄せてしまう

このような悪循環をくり返すことで、「やはり悪いことが起こった。自分の考えは正しかった」という思考が強まってしまい、さらなる悩みを生み出してしまいます。この自動思考の問題点は、当事者自身がその思考を疑わなくなる点です。

「書く」行為で人は冷静になれる

それを修正するために、たとえば、上司に呼び出されたときの感情や考え方のパターンを、0%から100%までの数字と一緒に記入するのです。

感情面では「不安90%」「怒り80%」、思考面では「リストラにあうはずだ80%」「上司は自分を嫌っている90%」などという具合です。

この記録を見ることで「100%確実に起こる」と信じ込んでいたリストラが、「じつは100%ではなかった」と気づいて冷静になれます。あるいは「80%だ」と予想していた場合、ほかの可能性も考えられるようになります。そして「100%確実に起こる」と信じ込んでいたのは、不安や怒りなどの感情の影響だったとわかります。

つまり「書く」という行為は、人間を冷静で客観的にしてくれる要素を持っているのです。怒りや不安が強まったときに書くことは、大きなメリットがあります。

文章を書く高齢者
写真=iStock.com/kazuma seki
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