昔はどこの会社にも、鬼のような上司がいた。上司は部下を厳しく育てた。部下たちは、猛烈社員となって会社の発展に寄与し、日本は奇跡の復興を遂げた。高度成長後、40数年の歳月が流れ、いつの間にか会社から鬼の姿が消えていった……。
上司は、部下に嫌われることを恐れて権限の行使をためらってはならない。部下は義務を果たさなければ処罰の対象となることを知らなければならない。同様に上司も、与えられた権限を行使して部下を動かすという義務を果たさなければ処罰される。これこそが、組織のルールである。
残業を終えた上司と部下が連れだって赤ちょうちんで一杯。日本中の街で見ることができる、ありふれた光景だ。不思議なことだが、日本人は同僚よりも上下関係のほうが仲良しという傾向が強い。たがいに相手を思いやり、助け合い、かばい合う。いわば親分子分の関係だ。これは日本の美点かもしれない。だが、この仲の良さが曲者で、上下関係が師弟関係になりにくい原因のひとつになっている。
なぜなら、部下を思いやるあまり、突き放して指導することができなくなっているケースがあまりにも多いからだ。
師弟関係はもっと厳しいものだ。「この部下を育てる」と決めたら、たとえ部下が嫌がろうと反発しようと諦めずに教育する。わかるまで、できるまで繰り返し教え込む。できたときは「よくやった」と褒め、さらなる仕事、さらなる難事に挑戦させる。決して甘やかさず、決して妥協せず。もし弟子が師の教えに背けば、破門が常識だ。義務を果たさなければ、処罰も辞さない。
「泣いて馬謖を斬る」という故事成語がある。つまり、規律や秩序を保つためには、たとえ愛する者であっても違反者は厳しく処分するという意味である。中国の『三国志』の話である。蜀の軍師・諸葛孔明の命令に背き、街亭の戦いに大敗した愛弟子の馬謖を孔明は処刑し、みんなに謝罪した。「軍律の遵守が最優先事項」だからである。